日別アーカイブ: 2020年7月12日

黒幕・政商たち p.176-177 「麻薬」には常に国家の意思が

黒幕・政商たち p.176-177 梅毒と並び称されながらも、その背後関係をみる時「麻薬」のもつ、国際的、思想的、政治的な謀略性は、「梅毒」の比ではないことは、明らかである。
黒幕・政商たち p.176-177 梅毒と並び称されながらも、その背後関係をみる時「麻薬」のもつ、国際的、思想的、政治的な謀略性は、「梅毒」の比ではないことは、明らかである。

私がピンときたというのは、〝鈴木の謀殺〟ではないか、ということである。鋤本被告のい

う通り、鈴木がピストル自殺であれば、問題である。

また、何故、鈴木が一般病院に出されたかという疑問である。鈴木がスパイとして仲間を売ったことを恐れていれば、調書でもいっているように、仲間の制裁は予想されるところだ。当時の病院の警備は? ピストルの入手先は? 射った手の硝煙反応は? 死体検案書は? ピストルの捜査は?——まだ、一つも裏付け調査にかかっていないので、疑問だけだが、鈴木が、死ぬことを、或は殺されることを、心中秘かに期待した者は誰だろうか?

松尾警部の心中行、麻薬課長の妻の脅迫の噂、そして、スパイと密売人の二足のワラジの男の死——これらの一連の問題は、確かにその背後は、麻薬の何かがあるのだ!

白い粉に国家の政略

阿片という武器

最近の日本で、静かなブームを呼んでいるもの——もちろん、加山雄三やサッカーではない、麻薬と梅毒であるという。

北鮮スパイ事件のひんぱんな発表が、一向に〝危機感〟を起さないように、麻薬や梅毒のまんえんが、危機感を呼ばないのは、その潜行性の故であろうが、さきごろのカメラの大手メーカー、ヤシカ専務とその一味の麻薬事犯ほど、世の警鐘となったものはあるまい。

治安当局のある麻薬担当官は「日本の麻薬禍は、上流階級と底辺層とにまんえんしつつある」といっているが、ヤシカ専務事件が、それを雄弁に裏付けてくれる。芸能人や高級コール・ガールを媒介として上層階級に侵透しつつある「麻薬」とは、一体、何であろうか。梅毒と並び称されながらも、その背後関係をみる時「麻薬」のもつ、国際的、思想的、政治的な謀略性は、「梅毒」の比ではないことは、明らかである。

セックス、酒、と博、麻薬などによって人間の弱点に喰いこむ「外国人獲得法」が、ソ連秘

密機関では「科学の段階」にまで高められているという。まず、身近かな実例で「麻薬」に対しては、常に国家の意思がつきまとうということを、実証しなければならない。

黒幕・政商たち p.178-179 時価百億円の阿片塊

黒幕・政商たち p.178-179 満州帝国の武部総務長官は、皇帝溥儀と帝国再建の方途とを考え、満州国が保有していた莫大な量の阿片をその資金とすること考えついた。
黒幕・政商たち p.178-179 満州帝国の武部総務長官は、皇帝溥儀と帝国再建の方途とを考え、満州国が保有していた莫大な量の阿片をその資金とすること考えついた。

セックス、酒、と博、麻薬などによって人間の弱点に喰いこむ「外国人獲得法」が、ソ連秘

密機関では「科学の段階」にまで高められているという。まず、身近かな実例で「麻薬」に対しては、常に国家の意思がつきまとうということを、実証しなければならない。

日本の敗色が濃くなってきた昭和二十年の初夏のころ、満州帝国の武部総務長官は、ソ連の参戦を必至とみて、皇帝溥儀の身のふり方と、帝国再建の方途とを凝らしていた。そして、考えついたのは、満州国が保有していた莫大な量の阿片を、ひそかに日本に運んで、その資金とすることである。当時の日本円に換算して、百億円ともいわれるほどの量であった。目方についての、正確な資料が残っていないので、時価百億円の阿片塊としかいえない。

武部長官は、関東軍に交渉して、その輸送に護衛を一個中隊つけることを頼んだが北方の風雲は急を告げており、一個小隊の日本軍が配属されたにすぎなかった。こうして、暮夜ひそかに首都新京(現在長春)を出発した輸送隊は、まず、道を吉林へととったが、やがて、ソ連の参戦、日本の降伏と、情勢の転変に、輸送指揮官の満州国総務庁の岩崎参事官は、辛酸を嘗めながらも、ようやく、仁川港にたどりつき、そこで船便を仕立てて、佐賀県の呼子港まで運んできた。

もちろん、この阿片塊の日本輸送については、当時の日本政府との、打ち合せ了解済みのことであった。日本政府としては、厚生省を主務官庁として、その阿片受け入れを「閣議決定していたのであった。日本側の担当官は、当時の、亀山幸一厚生次官であった。

呼子港へ着いたものの、連合軍の占領下にあった日本では、MPの麻薬取締りが厳しくなり、だ捕される危険が迫ったので、岩崎参事官は、船を高知県大方港へ回したが、神戸で一部船員が阿片を盗んで上陸し、MPに逮捕されるという破目になった。

何しろ、溥儀皇帝も日本に亡命し、その満州帝国再建の資金という予定で出発した輸送隊だけに、本家本元の日本が降伏してしまった現在では、受入れるハズの日本政府が鹿十で横を向いてしまったのだから、岩崎参事官以下の一行は、全く宙に浮いた格好で、いうなれば、二階に上っている間にハシゴを外された形になってしまった。

これを知った頭山秀三、五島徳次郎らの国士たちが「引揚同胞の援護資金」にしようというので、米占領軍の第六軍司令官に交渉をはじめ、その管内である和歌山沖に船を回送させて、幾度かの折衝を重ねたが、第六軍司令官を説得し切れず、ついに一行は船もろとも、MPにだ捕されてしまった。満州、朝鮮の輸送間に暴徒に襲われて、一部を掠奪され、日本政府にソッポを向かれたため、船員の賃金は未払いとなって、またまた一部が船員に盗まれ、米軍に押収された時には、時価約八十億円に減っていたという。

黒幕・政商たち p.180-181 すべて密輸入麻薬によるもの

黒幕・政商たち p.180-181 李金水、李秀峰、王漢勝らの、〝在日麻薬王〟が相次いで検挙され、ヤミ麻薬が品薄になった当時、横浜の一部で街頭まで中毒者があふれ出したことがあった。
黒幕・政商たち p.180-181 李金水、李秀峰、王漢勝らの、〝在日麻薬王〟が相次いで検挙され、ヤミ麻薬が品薄になった当時、横浜の一部で街頭まで中毒者があふれ出したことがあった。

日本人、流通機構の中の役割り

当時は、すでにポツダム勅令で、麻薬取締規則が公布されていたので、岩崎参事官以下の輸送隊の連中は、麻薬の密輸となって、罪が大変に重くなる。折角、国のために働らいて、麻薬密輸犯の汚名を着せられては、というので、頭山秀三らの運動が効を奏し、米軍の軍事裁判にかけられずに、日本側に身柄を引取り、単なる密輸事件として裁判を行い、一行は数カ月の服役ののち、仮釈放の形で出獄することができたのであった。——そして、時価八十億円という阿片は、米軍に没収されたまま、その消息を絶ったのであった。

時価八十億円の阿片塊! これが末端価格になると、八百億にも、八千億にもなるのであろうが、ここで注意しなければならないのは、麻薬は世界各国とも、取締られているため、ヤミ価格が高いのであって、医療用麻薬は決してそんなに高価ではないのだ。すると、満州帝国再興の資金といい、引揚同胞援護資金といっても、これは、麻薬中毒者を需要家としての、密売による収入ということである。

ヤミ市場であるから、需給には敏感である。大量に流せば時価は下落する。ひところ、李金水、李秀峰、王漢勝らの、〝在日麻薬王〟が相次いで検挙され、ヤミ麻薬が品薄になった当時、横浜の一部で街頭まで中毒者があふれ出したことがあった。もし米軍に押収されなかったなら

ば、この莫大な麻薬は、どのようなルートで、どこに流れ出たであろうか。まさか、日本国内で、日本人中毒者を対象として、密売されるわけではなかろうが、外国へ密輸出しても、それが逆輸入されて、日本と日本人とを蝕ばまないと、誰が保証できようか。

麻薬は、このように、国家の意思さえもシビれさせる〝魔薬〟である。武部総務長官、岩崎参事官、亀山厚生次官と、いずれも「官」の字がつく人々である。そして日本人である。満洲帝国と大日本帝国という、二つの国家の意思決定に対して、忠実に、その「国家意思」に従った人々であるが、この終戦秘話ともいうべき、満州国の阿片塊事件は、もう少し調べて、事実を究明しなければならない。関係者のうち、まだ何人かは現存しているハズである。

ポツ勅による麻薬取締規則にもとづいてアメリカの麻薬法を引写しに、麻薬取締法(旧法)が公布され、厚生省麻薬取締官という、新しい官制もしかれた。こうして、戦後の日本には、麻薬撲滅のための二重、三重の治安態勢が整ったハズであったが、事実は、果してどうであったろうか。

ある治安当局では、直接、麻薬事犯の検挙にはタッチしないが、戦後の麻薬事犯がすべて密輸入麻薬によるものであるため、関係者の名前とその系列とを、丹念にひろって、整理を進めていった。いわゆる文書情報である。最近の数字で、年間取引額は四十億円を上回り、中毒者は、常時二十万人を超えることも判明してきた。

黒幕・政商たち p.182-183 中共の日本に対する麻薬攻勢

黒幕・政商たち p.182-183 李金水、李秀峰、王漢勝たちの、上部機構。取締当局はそれを追及した。そして、背後に、ハッキリと中共という、「国家の意思」を認めたのであった。
黒幕・政商たち p.182-183 李金水、李秀峰、王漢勝たちの、上部機構。取締当局はそれを追及した。そして、背後に、ハッキリと中共という、「国家の意思」を認めたのであった。

国内における販売組織は、AからEまでの約五段階。A(扱い量キロ単位)、B(ポンド単位)、C(1/4ポンド単位。この段階で15%程度のブドウ糖が混入される)、D(5グラム単位。さらにまた、15%のブドウ糖を混入する)、E(俗にペーヤと呼ばれる末端密売人。このクラスから中毒者に渡る。5グラム包をさらに二百包に分包し、一包三百円から五百円ほどで売られる)と、組織されている。

クスリの世界では、ポンドというのは慣習で五百グラムをいう。AからEまでの流通の経過を逆算してゆくと、五グラムが十万円で売れる。しかしこの五グラムは15%のブドウ糖含有であるから、麻薬は四・二五グラムしかない。その以前のC段階で、またさらに15%のブドウ糖が混入されるから実質は、約三・六グラムである。従って、B段階のポンド(五百グラム)は、一千四百万円程度ということになる。この簡単な計算でも、麻薬が生産者、もしくは、卸売り業者にとって、どんなに莫大な利益をもたらすか、明らかである。

さる四十一年七月二日付毎日夕刊は、看護婦が病院からリン酸コデイン約百グラムを盗み出して、暴力団に流していた事件を報じているが、この記事には時価約一千万円と書かれている。また、同読売によると、公定価格二万四千四百円とある。すると、三・六グラムで約八百七十八万円。これが前記流通機構にのると、約十万円になるのだから、ヤミ麻薬の密売の実態が判断されよう。

 さて、当局では、この流通機構の各ランクに、検挙者をあてはめていってみると、D、Eクラスは、ほとんど全く、日本人であり、暴力団員、もしくは、中毒者であったが、A、B、Cクラスは、例外を除いては、すべて中国人であることに注目した。

A級幹部の背後に中共政府

もちろん、これはすでに常識であるといっても良いであろう。第一線当局は、検挙した被疑者を、徹底的に追及して、彼に麻薬を提供した人物、機関、組織を自供させた。さきの流通機構における、キロ単位の扱量をもつAクラスの連中が、〝麻薬王〟と新聞辞令を冠された、李金水、李秀峰、王漢勝たちである。このAクラスの上部機構は、日本国内にはない。取締当局はそれを追及したのである。そして、その結果、背後に、ハッキリと中共という、「国家の意思」を認めたのであった。

 中国大陸が麻薬の生産地として、世界的に知られているのも、常識である。しかし、生産地であるということは、必らずしも、その生産と販売とに、政治目的が伴っているということにはならない。だが、治安当局の、戦後二十年に及ぶ、麻薬取締の実績と、その資料の整理とが、中共の日本に対する麻薬攻勢を実証したのであった。

 点は検挙中国人である。治安当局では、この点と点を結ぶ線を求めた。警察官調書や検察官

調書、麻薬取締官調書の、片言隻句をつづり合わせて、線が結ばれた。こうして、別表のように、中共政府の「国家意思」をみつけだしたのだった。

黒幕・政商たち p.184-185 沈士秋、麻薬スパイだった

黒幕・政商たち p.184-185 もし、この沈士秋を捕えていれば、名前だけは浮んでおりながら、実体不明だった、麻薬と中共の関係交点にいる、李士華などの重要人物の解明ができたのであった。
黒幕・政商たち p.184-185 もし、この沈士秋を捕えていれば、名前だけは浮んでおりながら、実体不明だった、麻薬と中共の関係交点にいる、李士華などの重要人物の解明ができたのであった。

点は検挙中国人である。治安当局では、この点と点を結ぶ線を求めた。警察官調書や検察官

調書、麻薬取締官調書の、片言隻句をつづり合わせて、線が結ばれた。こうして、別表のように、中共政府の「国家意思」をみつけだしたのだった。

警視庁外事課が、ある一人の中国人を追っていた。令状の容疑は、麻薬取締法違反である。その名前は沈士秋。ようやく追いつめて、都内下町のアジトに係官たちが踏みこんだ。

沈士秋と目された男は不在だった。しかし、間もなく帰宅するであろうという。二階に上って、何気なく押入れのフスマをあけた係官たちは、アッと叫んだまま、息をのんで立ちつくしていた。

大型の無電機が、押入れ一パイに装置されているではないか。

単なる麻薬の卸売り人、もしかしたら、他にナニかが出てくるかもしれない。過去の経験から、そんな莫然とした期待がないでもなかったが、係官たちは、彼がこんなに大物だとは思いもよらなかった。

麻薬スパイだったのである。アジトに無電局を開設しているのだから、やはり、中枢にいる人物に違いない!

この意外な呑舟の大魚に、流石の、警視庁外事課のヴェテラン刑事たちも、日頃のタシナミを忘れてしまった。アジトの玄関先に、脱ぎ散らされた六足の男靴!

刑事たちは、もっと意外な発見があるかもしれないと、やがて帰宅するであろう沈士秋の逮

捕も忘れて、家宅捜索に夢中になってしまったのである。そして、そのチャンスに、沈は玄関先までもどってきて、異様な雰囲気を察して、キビスを返して逃走した。

警視庁の全国指名手配は、直ちに全警察に行き渡ったが、兵庫県警から連絡すべき、法務省入国管理局神戸事務所へはこの重要手配が届かなかったのだった。港で、人間の出入国を監視するのは、入管事務所の仕事である。沈は、タッチの差で、神戸港から乗船し、国外へ逃走してしまったのであった。

東京で取り逃がした警視庁は、その手配が十分に間に合っているにもかかわらず、兵庫県警と神戸入管との、感情的対立から、またもや、神戸で逃げられたと知って、それこそ、地団駄をふんで口惜しがったのである。

もし、この沈士秋を捕えていれば、今までの、外事、麻薬捜査の積み重ねの中で、名前だけは浮んでおりながら、実体不明だった、麻薬と中共の関係交点にいる、李士華などの重要人物の解明ができたのであった。