会長が大蔵大臣の会社
詐欺を働いても安全?
衆議院議員麻生良方。民社党所属で東京一区選出の知性派である。まず、この人の話から紹介しよう。この麻生議員の言葉が信じられないことはあるまい。
「私は、全日本流通機構株式会社の件を、衆院商工委で質問するに当って、関係者である福田赳夫蔵相や福田一元通産相に質問の連絡をしました。すると、御両人とも、本人じきじきに、幾度か私のもとに連絡をされてきました。これでも、事件の内容というものが推察されるではありませんか。そして福田一議員などは、『イヤ、いろいろとユスられて困っているんだ』と、述懐されていたほどです……」
つまり、麻生委員の質問は、同社のパンフレットを印刷した「さとう印刷」という会社は、そのパンフレットに、「会長福田赳夫、顧問、湊守篤(日興証券KK社長)、星野直樹(東京ヒルトンホテル副社長)、飯塚重威(国学院大学教授)、相談役、神谷正太郎(トヨタ自動車販売KK社長)」と、現役大蔵大臣をはじめとして、知名人の名が記入されており、社長は、福
田一元通産相の息子ときいたので、すっかり信用して、手形払いの条件で仕事を引受けた。ところが、その代金四十四万円の手形は、全部不渡り。こんなことがあってよいものか、蔵相は承知しているのか、といったものである。
これに対し、福田蔵相は出席せず、大蔵省の村上官房長が代って答弁に立ち、「結論からいうと、承諾を与えたことはない。三十九年春知人が青年を連れてきて『最近の流通機構の近代化について、話を聞かせてほしい』といい、大臣は『準備なり資金がととのわないと……』と説明した。ところが、四十年の一月に会社ができ、名前が使われているというので、誤解を招くといけないと知人を呼び、大臣が語気強くパンフレットの回収と名前の削除を命じた。電光石火のようにものを買って姿をくらましたため、誠に申しわけない。大臣に就任してから、会社の役員などは全部やめている」と、弁明した。(毎日紙)
さて、これで、大体前後の事情はのみこんで頂けたことであろう。つまり、福田一元通産相の息子の福田弘なる人物が、代表取締役になって、本人の許可もなく、会長に福田赳夫の名前を使い、さらに、顧問、相談役などに一流財界人の名前を並べて、取込み詐欺同様のマネをして、会社は〝蒸発〟し、社長はノウノウとしている、といった事件なのであるが、不思議なことには、これが、いわゆる事件化しないのである。つまり、刑事事件として、十分な要件を揃えておりながら、何故か〝不発〟なのである。