戦後最大の汚職の真相
三百億円に群がる黒い蟻
開票の結果は、一、四九四票。三区の総投票数四十七万票の三百十三分の一しかとれなかった。だが、この千五百票の支持者は、彼の演説のうち、〝黒い霧〟につづく、「かの電発九頭竜ダムの問題では…」にフト耳を傾け、足を止めた人たちであったに違いない。麻布中学、慶大という名門校コースの履歴をもつこの男が、〝ほうまつ候補〟扱いの恥辱にも耐えて、何故、立候補したのであろうか。
電発—電源開発法による特殊法人「電源開発株式会社」はこう略称で呼ばれる。株式会社といっても、株主は政府と九電力の十人だけ。資本金六百一億円のうち、六百億円は政府の出資というのだから、その性格もうかがえよう。
昭和二十七年に創立されてから十余年の社歴を持つにいたったがこの十年間の電発をめぐる政治疑惑は、佐久間ダムの輝かしい成功をよそに、「九頭竜ダム」の名とともに、日本を暗くおおっている。
石川達三の政治小説『金環触』に具体的に示され、田中彰治事件で報道もされたが、三百五十億という巨費が投じられる「九頭竜ダム」とあっては、自民党の総裁選もからんで、利権と陰謀と悪徳とがうずまき、果ては〝ケネディ暗殺〟まがいに、ナゾの犠牲者すら生んだのであった。
池田首相秘書官をつとめ、大蔵官僚としてのエリート・コースを歩んでいた中林恭夫氏の突然の死。九頭竜ダム入札問題の渦中の人、政界紙社長倉地武雄氏の変死——ともに、飛降り自殺、息子の凶行と、それぞれに〝解決〟はされているが、「ウォーレン報告」と同じく、素直に信じない多くの人たちがいることは事実である。
一体、そこで何が行なわれたのか? 巨額の金が動く土木工事に、〝政治的圧力〟がつきまとう。
私は、この電発九頭竜ダムにからむ〝疑惑の数々〟を、機会あるごとに究明して、戦後最大の汚職といわれる事件の真相をキャンペーンした。
過去の事件ではあるが、その「人」と「事件」と役割との関係を明らかにして、社会的弾劾を加え、糾弾されねばならないからである。
危険と困難とは、このキャンペーンの前途に予想される。しかし、どうして、〝九頭竜のナゾ〟は〝小説〟の形をとらねば書けないのだろうか。「真実の報道」の形で、私はこの〝壁〟
に挑む決意を、いよいよ深くしたのだった。