黒幕・政商たち p.106-107 日本産銅の両鉱区は水没する

黒幕・政商たち p.106-107 そのスッタモンダの最中の三十六年ごろ、緒方は赤坂で地元代議士の福田に会見した。「巌洞鉱山なんて知らない」と開口一番、福田はいった。
黒幕・政商たち p.106-107 そのスッタモンダの最中の三十六年ごろ、緒方は赤坂で地元代議士の福田に会見した。「巌洞鉱山なんて知らない」と開口一番、福田はいった。

現実の調査と取材とは、まだまだこれからの長い時間を必要とするだろう。

【疑問】

その一、計画変更の経緯 電発と北陸電力との竸願はなぜか。電発に決った時、なぜ水路が遠くなり発電力が落ちたのか。土建業者とのクサレ縁はないのか。

その二、不正入札 土建業者の談合は? クチバシを入れた政治家夫人はいないか。

その三、人事問題 藤井総裁実現のため誰と誰が動いたか、エンギをかついだ末広がりの八千万円の金は誰の手に?

その四、ナゾの死 中林、倉地両氏の死にいたるまでのナゾ。

その五、利権代議士 その名は? 計画変更や不正入札に暗躍した奴はいないか?

その六、補償 池原ダム汚職の金の動きこそ、補償問題の典型である。ここにも、代議士が登場する。

今、彼は東京駅前、郵船ビル六階にある株式会社「シリカ」の社長室で、静かに選挙戦のあとをふり返ってみる。侯補者からようやくシリカ社長にもどった彼の、脳裡に去来するものは、九頭竜ダムのため、悲運に傾いた会社の十年の苦闘と、現実に味わった〝民主政治の選挙〟の苦杯。——その中から、彼は、ふたたび新たな闘志を、湧き立たせてくれたものを感じていた。

「現状の打破です。現代官僚権力政治は、法律さえ守れば道義も道徳も顧みない。責任はとらない。今日の経済の繁栄は自民党官権政治のおかげだとうそぶく。こうした連中を叩きつぶさねば、明日の日本はどうなります!」こうして彼は驚くべき〝政治の恥部〟について語り出した。

右翼の巨頭乗りだす

九頭竜ダムの水没地点付近に、昭和十五年から操業している日本産銅という鉱山会社があった。同社巌洞鉱業所の巌洞鉱区と長野鉱区である。もちろん上場会社だった。

戦後の混乱期がすぎて二十六年同鉱業所を再開し、同時に設備の拡張合理化(日産一〇〇トン処理採掘選鉱設備)を目指して操業兼建設を始めた。

そこに昭和三十三年になって、電発が〝日本最後の大ダム工事〟という九頭竜ダムの計画も具体化してきた。電発案によれば、この日本産銅の両鉱区は水没する——そして電発側から同社に、「貴社の協力がなければこの計画が実現できない。国家的見地からぜひご協力願いたい。当然補償は着工前にいたしますから」という、協力要請さえもあった。

日本産銅としては昭和三十六年完成の予定で、通産省より開銀融資の推薦をうけ、同鉱業所の設備を一新する計画が進んでいたが、この〝要請〟から計画を変更して翌三十四年、電発への協力を株主総会で決定、鉱区は休山することとなった。だが、北陸電力が竸願したことから、九頭竜ダム計画は二転、三転、日本産銅は宙ブラリンのまま放出されてしまった。

「国家的意義のある建設工事と思えばこそ、進んで協力したのに政治家にとってはダム工事も単なる利権にすぎない。彼らの利権争いが、竸願、計画変更といった現象を生みだすのだ」

緒方はこうきめつける。

そのスッタモンダの最中の三十六年ごろ、緒方は赤坂で地元代議士の福田に会見した。 「巌洞鉱山なんて知らない」と開口一番、福田はいった。しかも時間がたってから、「お前のところは二十億もの補償を要求しているそうだナ」