黒幕・政商たち p.142-143 芝山義豊、明治41年生。元子爵

黒幕・政商たち p.142-143 元宮様の会社の手形を、小宮山重四郎候補の実兄、小宮山平和相互銀行頭取の手で割っていた。 つまり、小宮山候補を逮捕すると、社長の元宮様も逮捕せざるを得なくなるのである。
黒幕・政商たち p.142-143  元宮様の会社の手形を、小宮山重四郎候補の実兄、小宮山平和相互銀行頭取の手で割っていた。 つまり、小宮山候補を逮捕すると、社長の元宮様も逮捕せざるを得なくなるのである。

元子爵、二幕目で主演?

さて、御喜家引退にはじまる、ランドの第二幕のドン帳があがった。そこに、〝口先ばかり〟ではない、一人の人物が登場する。

芝山義豊、明治四十一年生。元子爵。

私の、芝山氏に関する記憶は、終戦後の「世耕事件」にまでさかのぼる。あの隠退蔵物資の摘発こそは、旧陸軍の兵器弾薬を、国府軍に引渡すという計画のもとに、芝山氏の構想からスタートしたものであった。

さらにまた最近では、小宮山重四郎代議士(自)が、初出馬した選挙で、鮎川金次郎にも劣らぬ、大買収作戦を展開したことがあった。小宮山派の違反は、埼玉県警の摘発をうけて、連日拡大の一途をたどり、ついには落選した小宮山候補の身辺まで危うくなってきたのだった。

だが、身辺に迫った段階までで、同派の違反事件はピタリと止った。不審に思った私が調べてみると、同派の買収資金は、小宮山候補がかついでいた、元宮様が社長をしている会社の手形を、小宮山候補の実兄、小宮山平和相互銀行頭取の手で、平和相互が割っていたものであった。——つまり、小宮山候補を逮捕すると、どうしても、社長の元宮様も逮捕せざるを得なくなるのである。そこに、県警本部長の〝政治的判断〟が働らいたようであった。

そして、芝山氏はその元宮様と学習院で同期生であり、県警本部にも、氏が現れた形跡があったのである。そのことをただした私に対し、芝山氏は笑って反問した。

「今は一市民となれたのだが、何も知らない方を〝逮捕〟するということは、やはり避けるべきではないだろうか」

この芝山氏の、コンサルタントとしての登場により、ランド問題は急速に動きはじめたのである。芝山氏は、まず第一番に、財界人の一致団結と、御喜家氏の引退とを求めた。いうなれば、一総会屋の手先にはならんのだゾ。そのためには、〝実〟業家である財界人が、団結して、ワシに礼を尽せ、ということであろうか。

この第二期を物語る、六通の文書がある。その第一は、十二名の財界人の自署連名による、田中蔵相への陳情書である。

三十九年八月十七日の日付のある、その第一号文書には、市村清を筆頭に、長沼弘毅、藤井丙午、平木信二、駒井健一郎、本間嘉平、藤川一秋、岡崎真一、安西正夫、松原与三松、五島昇、藤井深造とつづく。

文書の二、三はほぼ同じ内容である。「意見書」と題されるその二通の一つは、三十九年十月十四日付、名儀は、神奈川県市長会会長の肩書で、金子小一郎藤沢市長。その二は、それより一週間あとの二十一日付で、名儀は、神奈川県市議会議長会会長の肩書で、金子吉蔵平塚市

議会議長である。