国内における販売組織は、AからEまでの約五段階。A(扱い量キロ単位)、B(ポンド単位)、C(1/4ポンド単位。この段階で15%程度のブドウ糖が混入される)、D(5グラム単位。さらにまた、15%のブドウ糖を混入する)、E(俗にペーヤと呼ばれる末端密売人。このクラスから中毒者に渡る。5グラム包をさらに二百包に分包し、一包三百円から五百円ほどで売られる)と、組織されている。
クスリの世界では、ポンドというのは慣習で五百グラムをいう。AからEまでの流通の経過を逆算してゆくと、五グラムが十万円で売れる。しかしこの五グラムは15%のブドウ糖含有であるから、麻薬は四・二五グラムしかない。その以前のC段階で、またさらに15%のブドウ糖が混入されるから実質は、約三・六グラムである。従って、B段階のポンド(五百グラム)は、一千四百万円程度ということになる。この簡単な計算でも、麻薬が生産者、もしくは、卸売り業者にとって、どんなに莫大な利益をもたらすか、明らかである。
さる四十一年七月二日付毎日夕刊は、看護婦が病院からリン酸コデイン約百グラムを盗み出して、暴力団に流していた事件を報じているが、この記事には時価約一千万円と書かれている。また、同読売によると、公定価格二万四千四百円とある。すると、三・六グラムで約八百七十八万円。これが前記流通機構にのると、約十万円になるのだから、ヤミ麻薬の密売の実態が判断されよう。
さて、当局では、この流通機構の各ランクに、検挙者をあてはめていってみると、D、Eクラスは、ほとんど全く、日本人であり、暴力団員、もしくは、中毒者であったが、A、B、Cクラスは、例外を除いては、すべて中国人であることに注目した。
A級幹部の背後に中共政府
もちろん、これはすでに常識であるといっても良いであろう。第一線当局は、検挙した被疑者を、徹底的に追及して、彼に麻薬を提供した人物、機関、組織を自供させた。さきの流通機構における、キロ単位の扱量をもつAクラスの連中が、〝麻薬王〟と新聞辞令を冠された、李金水、李秀峰、王漢勝たちである。このAクラスの上部機構は、日本国内にはない。取締当局はそれを追及したのである。そして、その結果、背後に、ハッキリと中共という、「国家の意思」を認めたのであった。
中国大陸が麻薬の生産地として、世界的に知られているのも、常識である。しかし、生産地であるということは、必らずしも、その生産と販売とに、政治目的が伴っているということにはならない。だが、治安当局の、戦後二十年に及ぶ、麻薬取締の実績と、その資料の整理とが、中共の日本に対する麻薬攻勢を実証したのであった。
点は検挙中国人である。治安当局では、この点と点を結ぶ線を求めた。警察官調書や検察官
調書、麻薬取締官調書の、片言隻句をつづり合わせて、線が結ばれた。こうして、別表のように、中共政府の「国家意思」をみつけだしたのだった。