読売梁山泊の記者たち p.208-209 警視庁当局の国際バクチの摘発

読売梁山泊の記者たち p.208-209 女優の白光(パイコワン)をはじめ、「東京租界」の人脈を駆使して、情報を取りはじめてみると、やはり、クサイ。ナンのチャリティなのか、目的が明らかではないのだ。街角で、「難民救済にカンパを」と募金箱を突き出す連中。アレと同じ。
読売梁山泊の記者たち p.208-209 女優の白光(パイコワン)をはじめ、「東京租界」の人脈を駆使して、情報を取りはじめてみると、やはり、クサイ。ナンのチャリティなのか、目的が明らかではないのだ。街角で、「難民救済にカンパを」と募金箱を突き出す連中。アレと同じ。

警視庁タイアップの華麗なスクープ

その、裏付けともいうべき、警視庁当局の自信に満ちた、国際バクチの摘発があったのは、翌昭和二十八年三月十七日の、クラブ・マンダリン事件であった。

その一階こそは、秦の始皇帝の後宮とは、かくやとも思わせる、豪華なレストランではあったが、二階は、モーリス・リプトンら、マニラグループの支配する、国際バチク場であったのである。

この摘発には、私は、警視庁防犯部の〝最大の協力者〟であった。私というよりは、読売新聞というべきであろう。私をキャップに社会部記者、警視庁クラブと本社遊軍との合作で、大摘発が成功した。スクープとは、当局から、特ダネのネタを頂くことではない。

「ア、三田さん? オタクでは、ジャパン・タイムズ、とっている? 社会部にはなくとも、外信部にあるでしょう?」

電話の主は、いきなり、こう切り出した。まだ、現職にあるといけないので、名前は伏せるが、英語に強いジャーナリスト。「東京租界」キャンペーンで知り合った日本人。彼は、その朝、ジャパン・タイムズをひろげていて、〝気になる〟広告を見つけた、というのである。

それは、銀座のチャリティ・パーティー。会場がマンダリン・クラブとあるのに、〝ひっかかった〟と、話す。

社会部記者の花形は、むかしは、警視庁クラブであった。各社とも、サツ廻りを卒業した、若手の俊秀を注ぎこむ。

コロシの一課(刑事部捜査第一課)担当は〝コロシの○×さん〟と呼ばれて、新人記者から、崇敬の視線を注がれるが、その日常生活は、一課刑事と親しくなるための、あまり、知的なものではない。

それを、横眼に見ながら、〝二課記者〟は呟く。「フン、コロシか。オレたちは、知能犯担当だもンな」

さらに、それを、鼻でセセラ笑うのが、公安記者である。「知能犯? どうせ、サギ師ダロ? 公安は、思想犯と外事なのさ。国際犯罪ッてのは、インターナショナルなンだ」

まさに、メクソ、ハナクソを嘲うの類だが、外事・公安担当だった私は、この電話を受けて、緊張した。広告の現物を見ると、もう、数日後に、そのチャリティ・パーティーは迫っていた。

女優の白光(パイコワン)をはじめ、「東京租界」の人脈を駆使して、情報を取りはじめてみると、やはり、クサイ。ナンのチャリティなのか、目的が明らかではないのだ。

街角で、「難民救済にカンパを」と、募金箱を突き出す連中。アレと同じように、目的不明のチャリティなのである。一日、二日と情報を集めてみて、名前の出ている、聖母病院も、関知していないことが、明らかになった。

「部長、東京租界の続きで、オモシロイのが手に入りました」

原部長も、あの、眼尻の下がった、可愛い笑顔で、ウン、ウンと私の報告を聞く。