正力松太郎の死の後にくるもの p.272-273 販売担当者の〝オ大尽〟物語

正力松太郎の死の後にくるもの p.272-273 本社販売部員たちは、一歩社を出たら一切の経費が販売店もちで一銭もかからないという。社から出る規定の旅費、日当、宿泊料など、すべてが自分のポケットに残る。
正力松太郎の死の後にくるもの p.272-273 本社販売部員たちは、一歩社を出たら一切の経費が販売店もちで一銭もかからないという。社から出る規定の旅費、日当、宿泊料など、すべてが自分のポケットに残る。

もっとも、社会部記者一筋の私にとって、販売担当者の〝オ大尽〟物語は、あくまで誇張された〝風聞〟〝流説〟であって、どれ一つをとっても、裏付け取材したものではないことを、お断わりしておかねばならない。

まず、月中ごろに新聞の集金が来る家は、金があると狙われている家だという。もちろん、月末に集中しては、人手の都合もあって集金に廻りきれない、という理由もある。一軒の家では、五、六百円でも、百軒で五、六万円、千軒で五、六十万円の、まとまった現金が、早く入金する。そして、半月早く集金し、本社納金を半月おくらせると、一カ月浮くので、この現金を他に廻して、利ザヤを稼ぐというのだ。

本社販売部員たちは、一歩社を出たら一切の経費が販売店もちで一銭もかからないという。社から出る規定の旅費、日当、宿泊料など、すべてが自分のポケットに残る。販売担当員たちは、本社から販売店に行く集金係だから、店主はこれと協調してウマクやらねばならないからだ。

読者から集めた購読料は、サミダレ式に販売店主の手に入る。これを、本社に納金する時期如何で、如何様にも廻せるワケだ。何しろ、ツケなのだから、いいわけはどのようにもつけられる。販売スタンドが、何部入荷し、残部いくらだから、現金はいくらいくらというのとは、ワケが違う。ここに、販売店のウマミがある。

しかも本社からは、販売店の扱い部数によって、何部かの拡張用の赤紙(無料紙)がついてく

る。何カ月タダで入れるから、何カ月購読してくれと、捺印を求める、あのタダのサービス用新聞である。ところが、読者によっては、この本社の無料紙にも、キチンと購読代を払ってくれるお人好しもいるから、コタエられない。

さらに、自民党幹事長の、領収証のいらない機密費のような、「拡材」という、例のバケツやナベの、販売拡張用資材、略して拡材がある。新聞社の販売合戦の内幕をバクロしたら、それこそ、吃驚仰天の事実がでてくるであろう。しかし、販売経費なるものの実態は、永遠に誰からもバクロされないであろう。何故かといえば、バクロした者自身が、刑事責任を追及されるおそれもあるだろうし、全般的に、的確な証拠を入手することが困難だからである。

新聞協会の販売委員会が、拡材の規制や、地区ごとの不当競争を協議する。時たま、一般週刊誌などに、新聞拡張員同士の乱闘騒ぎや、刃傷沙汰が報じられるが、販売関係業界紙誌(もっとも、業界紙はすべて販売関係であるが)をひろげてみると、全国の大小のトラブル記事が目白押しに並んでいる。

販売委員会の様子を聞いてみると、各社の販売局長、部長クラスの委員が出席して、紛争当事社の委員は、それこそ、生れてこのかた、ポリバケツやナベ、カマなど、見たこともないような〝熱弁〟を振う。涙すら浮べて、「わが社はバケツなど拡材を使っていない」と、神にかけて誓うテイだそうだ。