正力松太郎の死の後にくるもの p.296-297 宅配制度の見通しに対しての渡辺の発言

正力松太郎の死の後にくるもの p.296-297 渡辺とのインタビュー二時間半をふり返ってみると、将来における見通しについては、極めて慎重。もちろん、「経営、業績ともに好調」と断言する渡辺が、今、〝宅配は崩れる〟とはいえない立場であることは、明らかである。
正力松太郎の死の後にくるもの p.296-297 渡辺とのインタビュー二時間半をふり返ってみると、将来における見通しについては、極めて慎重。もちろん、「経営、業績ともに好調」と断言する渡辺が、今、〝宅配は崩れる〟とはいえない立場であることは、明らかである。

渡辺とのインタビュー二時間半をふり返ってみると、過去の事実については、彼は極めて歯切れのよい発言をして、是は是、非は非としての、明快な結論を出すのだが、将来における見通しについては、極めて慎重であって、発言の影響やら、将来の、より重要な責任者としての〝食言〟を避ける配慮が、あのさわやかな弁説の流れの中で、よどみなく配られていたようである。

もちろん、広岡社長の下で、総合企画室長として、五カ年計画の立案者であり、「社主問題はもちろん、経営、業績ともに、広岡社長時代に入って、極めて好調である」と断言する渡辺が、今、〝宅配は崩れる〟とはいえない立場であることは、明らかである。

「さきごろの値上げ分八十円は、間違いなく全額を、宅配確保のための経費にまわした。これをどう使うかに、販売店ごとの実情に即して、店主に一任されている」「昔は、記者の待遇が一番よかったのだが、戦後は労働組合に、記者も工員も包含されて、同一賃金ベースになった。それが、今度は、宅配確保のために、販売店とその従業員までも、組合員に近い形で包含させられることを迫られつつある」「事実、退職金もなければ、昇給、栄進のない仕事では、労務管理上、極めてやりにくい。そこに人手確保の条件が、地域や時期(学校の試験、休暇)などで、それぞれ違うことが、さらに困難を加えている」「共販の問題はまだむずかしい。拡張の面からいうと、〝あの子が配達しているから〟といったように、配達員、集金員と読者との、人間的つながりが、部数確保、拡張などの面で、やはり無視できない要素である」

宅配制度の見通しに対しての、渡辺の発言は、大体、要旨このようなものであった。見通しについて、直接は答えていないけれど、これらの言葉の中には、私がいままで提起してきた、多くの問題について、はなはだ示唆的な回答が含まれている。

例えば、新聞経営は、部数の頭打ち(世帯数増加程度の伸びはある)で、読者の争奪戦となっている。これは、放送が二十四時間という、全時間を売り終った時と同じような状態で、利潤をあげるためには、値上げと合理化促進以外の途がなくなることを意味する。

従って、小刻み値上げはひん度を増すであろうし、合理化が徹底しなくてはならない。速報性を失った新聞にとっては、〝号外〟を刷るために整備された自営印刷工場も、今や負担になってきて、カラー印刷などの〝紙面効果〟以外に効用価値がなくなり、できれば、離して、外注にしたいあたりが本音であろう。

それなのに、労働組合があるため、工場部門を切りすてられないでいる。そこに切捨てに逆行して、販売店やその従業員までも、下手をすると、傘下に抱えこまねばならないとも限らない。東京都新聞販売同業組合PR版「読者と新聞」二月号は、今東光大僧正の談話として、「新聞社の準社員として社会的地位の向上はかれ」と早くも謳いだしている。これは新聞企業の自殺を意味することで、とうてい無理な注文であり、だから、「宅配は崩壊する」のである。

八十円の値上げ分が、社に入らなかったことは確かであろう。しかし、それが販売店主に渡さ

れるということは、地域差のため一律化がむずかしい(本社員に加え、組合員とすれば、従業員の待遇の一律化も可能である)とはいっても、タクシー値上げと同様に、会社が肥るだけで、運転手は依然としてカミカゼ、乗車拒否というのと同じである。