読売梁山泊の記者たち p.294-295 「ハハン。すると安藤もパクられたのか」

読売梁山泊の記者たち p.294-295 「今朝、運動の時に、『読売!』と、声をかけてきた男がいた。アレ、誰だい?」「もう、読売でもないのに、気易く声をかけるな、ッて、いってやれ。オメエのために読売でなくなったって、な…」 「ハハン。すると、安藤もパクられたのか」
読売梁山泊の記者たち p.294-295 「今朝、運動の時に、『読売!』と、声をかけてきた男がいた。アレ、誰だい?」「もう、読売でもないのに、気易く声をかけるな、ッて、いってやれ。オメエのために読売でなくなったって、な…」

逮捕の翌日朝、運動に出る時、「読売!」と、声をかけてきた男がいた。まだ、メガネの使用許可がとれず、遠いので、誰であるか分からない。

「今朝、運動の時に、『読売!』と、声をかけてきた男がいた。アレ、誰だい?」

「もう、読売でもないのに、気易く声をかけるな、ッて、いってやれ。オメエのために読売でなくなったって、な…」

「ハハン。すると、安藤もパクられたのか。小笠原も、旭川から護送されたんだろう。それにしちゃ、顔を見ないネ」

「オメエ、ほんとに声をかけた男、知らねえ男かい?」

「そういってるダロ、元山と王の関係で、小笠原を紹介されただけで、安藤組なンか、だれも知らないよ」

「フーン…」

この時から、石村主任の態度が変わった。いままでは、まだ、疑っていたのだった。私がほんとうのことを供述していない、と。

萩原の配慮で、中食には、大増の弁当がさし入れられた。子安が、石村の部屋まで届けてくれる。もう、調べは終わってしまい、私は、朝から石村部屋で、ダベりながら、時間をツブしていた。

「しかし、なあ。捕まえたオレが、牛乳とパンを喰っているのに、捕まったオメエサンが、豪華な弁当を喰っているッてのは、少し、オカシイんじゃないか」

部屋持ち主任の石村以下、デカ長一、デカ二の合計四名と、私とが、みんなで揃って中食を取る。そんな冗談も出てくるフンイキだった。いわゆる〝石村学校〟と呼ばれ、石村式捜査が、若い刑事たちに叩きこまれていくという、〝捜査の職人〟だった。

やがて、満期日がきて、私は起訴された。その翌日、高検次席だった中村弁護士は、自分で書類を持ち歩いて、保釈の手続きを素早く済ませてしまった。やはり、ベテランの刑事弁護士であった。

だが、ベテランの刑事弁護士では、あまり収入にはならない。人柄もまた、商売向きではないので、友人たちが仕事をまわしてくれる。やがて、彼は、児玉誉士夫の顧問弁護士になった。やはり、友人の好意からだ。

当時、すでに児玉批判を強めて、そんな雑誌原稿を書いていた私のことを、彼は、よく知っていた。ある日、銀座の中村事務所に、ヒョイと立ち寄ってみた。

「オイ、三田クン。いままでは、読売以来の仲で、親しくしていたけれど、これからは、そうはイカンぞ。…なにしろ、オレは、児玉の弁護士になったんだから、キミとの付き合いにも、一線を画するからな」

ニコニコとして、そういっていた中村弁護士だったが、早逝されてしまった。 裁判についても、書いておかねばならないだろう。一審は、中村主任弁護人、風間弁護人がついた。母方の従兄弟である、小野清一郎・法務省特別顧問・弁護士に、相談にいったところ、明解な見通しを示された。