最後の事件記者 p.240-241 K氏は裏切者として相当吊しあげられた

最後の事件記者 p.240-241 このトラブルの原因は、K氏の功利的なオポチュニストという、その人柄に問題があったのである。仲間を裏切った彼は、また、第二の仲間をも裏切ったのである。
最後の事件記者 p.240-241 このトラブルの原因は、K氏の功利的なオポチュニストという、その人柄に問題があったのである。仲間を裏切った彼は、また、第二の仲間をも裏切ったのである。

二人は思わず握手をしていた。
「石島とは聞いてたが、フル・ネームが出てなかったので、君とは思わなかったよ」

「オレもそうなんだ。三田という、あまりない姓だから、モシヤとも思ったンだ」

この意外な展開に、一番呆っ気にとられていたのは、K氏だったろう。だが、しばらくのちに石島弁護士は形をあらためて、私の記事への抗議に入った。私も、我に返って身構えた。

彼の抗議は鋭い。微細な点まで根拠を突っこんでくる。私は突っぱねるべきは突っぱね、説明すべきは説明した。約一時間のち、会見は物別れとなった。

このトラブルの原因の最大のものは、K氏の功利的なオポチュニストという、その人柄に問題があったのである。もちろん、私の記者としての態度にも、たった一つだけ問題はあった。

この抗議のある前に、私が調べてみた事情はこうだった。K氏はこの記事の出た翌日、学校へ行った時に、裏切者として相当吊しあげられた形跡があるのである。

自分が毎日生活する周囲から、こんなに強い反撥を受けたのでは、全くやり切れるものではない。K氏の態度は、また、変ったのであった。あれは読売が勝手にやったことであって、私は知らない、私だって迷惑しているのだ、と。

一人の女を捨てることのできる男は、二人の女をも捨てられる。こんな言葉がある。最初に、仲間を裏切った彼は、また、第二の仲間をも裏切ったのである。それと同時に、彼の感じたものは、新聞への無知、ということであろう。

つまり、読売という大新聞のトップ記事の影響力の強さを、彼は私と話している間には、それほど感じていなかったのであろう。しかも、彼のひそやかな裏切行為が、かくも派手に、かくも

効果的に使われるとは! というのが、彼の実感だったに違いないと、私は今でも信じている。

彼は信念のない人である。こういう種類の人物は、いかようにも使えるのである。私はこの「共産党はお断り」というスクープを、与論形成者として、意識的に造ったのであった。K氏はその素材である。

インテリはお体裁屋

スクープは造られるものだ、と私は信じて疑わない。新聞記者が好んで使う、「これはイケる!」「イタダケる」という言葉自体にそのことが現れている。ニュース・バリューの判断ということは、何を基準としていうのだろうか。

K氏はメーデーに参加して、たまたま検挙された。そして、〝悪質(暴力的な)な共産党員〟という、レッテルをはられた。その結果、彼は生活に窮してきた。彼はその言葉によると、共産党でもないし、悪質でもない。だから、このレッテルの下に生活に窮するということは、何としても不合理である、と考えた。そのレッテルから逃れるため、分離公判を受けたいと願って、村木弁護士のもとを訪れたのである。

そのことを、たまたま知って、彼のもとを訪れた私は、彼に何を訴えたいか、何を期待したいのか、とたずねた。彼は、共産党でないということを明らかにしたい、(それは、それを明らかにすることによって、取消された就職口や、家庭教師の口を回復し得ると期待したのであろう)もちろん、そ

のために公判を分離しようと思った、というのであった。