にせのルンペン
ライトが消えて、暗い舞台のドン帳のかげで、ドラが鳴りひびいて、幕が静かに上る。
オバさんは、ガラリと入ってきた客の顔をみてニッコリとする。サッソウとした青年記者のうしろから、油気のない頭髪の、貧乏たらしい男がついてきた。厳寒の候だというのに、オーバーもきていないのだ。二人が台の前に腰かけると、記者は酒を注文した。
「まア、Tさん。久し振り。アンタはいつもパリッとして、元気でいいわねえ」
「イヤア、ここしばらく忙しくてね」
オバさんと彼の挨拶がすむと、酒が出される。
「うまい。やはり一級酒は違うな。もう、もっぱらショウチュウで、しかも、このごろは御無沙汰ばかりだから……」
男はいやしく笑って、ナメるように酒をのむ。オバさんはフト、この奇妙な二人の取合せに疑問を感じたようだ。Tは素早く感じとって、
「しかし、鈴木さんあなたの全盛時代はいつも銀座だからね」
男は鈴木勝五郎といった。下品な仕草で酒を味わうようにピチャピチャと舌を鳴して、
「それはいいっこなしですよ。女房には逃げられるし、生きる希望も元気もなく、そうかといって死ねもせず、こうして昔のよしみで、あなたに就職を頼みにくる始末ですよ」
終りの方は、自分にいいきかせるように、やや感慨をこめていった。鈴木という名も、間違えないよう、同僚の名前を合せたものだ。私はオバさんの視線が、チラと自分に注がれたのを感じた。
「しかしね、Tさん。近頃の読売は一体何サ。佼成会のことをあんなにヒドク書いてさ。あたしァ、アンタにとっくりいって聞かせねば、と思ってたんだよ」
「ア、そうそう。オバさんは祈り屋だったッけね。だけど、佼成会だったのかい? それじゃくるんじゃなかった。読売と佼成会とじゃ、全然マズイじゃないか」
「イエ、いいんですよ。それはそれですから、いらしてもいいんだけどサ」
オバさんは、謗法罪といって、佼成会の悪口をいうとバチがあたる罪だとか、読売の記事についての、冗談まじりの口論をはじめる。鈴木は、はじめ興味なさそうに、やがて、だんだんと聞耳を立ててくる。
「もっともアンタは、♪今日も行く行くサツ廻り、ッてンだから、あの記事には関係ないんでしょ」
「そうさ。もっとエライ記者がやってるのだよ」
「じゃあ、本当は謗法罪で大変なところなんだけど、まあ勘弁してあげる。お悟りといって、バチが当るから、決してあんな記事は書いちゃダメですよ」
酒をのむ手も止めて、二人の話を聞き入っていた鈴木が、この時フイと口を開いた。
「しかし、オバさん。その妙佼さまを拝むと、本当に救われるかい? オレのような奴でもかい?」
オバさんは確信にみちて言下に答えた。