正力松太郎の死の後にくるもの p.110-111 読売新聞の〝信用〟にかかっている

正力松太郎の死の後にくるもの p.110-111 新聞が毎月二億の黒字に、ノウノウとしている時ならまだしも、赤字にアエいでいるところなのだから、新聞の〝信用の枠〟を、ランドに使われてしまったあとでは、今度は新聞自体が危うくなってくる。
正力松太郎の死の後にくるもの p.110-111 新聞が毎月二億の黒字に、ノウノウとしている時ならまだしも、赤字にアエいでいるところなのだから、新聞の〝信用の枠〟を、ランドに使われてしまったあとでは、今度は新聞自体が危うくなってくる。

ランドは株式会社関東レース俱楽部(注。現在は株式会社よみうりランドに合併)の所有である。

しかも、例の吹原産業の五反田ボーリング場と同様に、レジャー産業であるから、銀行の融資対象にはならないので、この百二十億の金の金繰りは、あげて読売新聞の〝信用〟にかかってきているのである。新聞ならば金を借りられるが、ランドでは金を借りられないのである。

ところが、新聞が毎月二億の黒字に、ノウノウとしている時ならまだしも、赤字にアエいでいるところなのだから、新聞の〝信用の枠〟を、ランドに使われてしまったあとでは、今度は新聞自体が危うくなってくる。角をためて牛を殺そうというところだ。

春闘のさい、七千五百円アップの要求を出した組合は、会社側の〝赤字〟〝財源がない〟という拒否に対して、ランドへの融資問題を取上げて攻撃してきた。三月二十六日付「闘争情報」によると、

会社は未払い金の方ばかりいっているが、未収益金や、よそに貸している分はいくらあるか。会社はよそに金は貸していないというが、大蔵省の監修で出している、政府刊行物の有価証券報告書によると、関東レース倶楽部の決算報告には、読売からの短期借入金が毎期とも計上されている。これはいずれも当期末残高という形で出されているので、その途中ではいくらになっているかわからない。三十七年九月期・十一億五千万円。三十八年三月期・十一億七千万円。三十八年九月期・五億円。三十九年三月期・六億円。

組合がいままでにも、「金繰りが苦しいのは、ランドに銀行から金を借りてやっているからで

はないか」と質問しても、「そんなことは絶対にない」と答えていた。

この、証拠をつきつけての、組合の攻撃には、会社も参ったらしい。「同情報」によると、会社側の返事は、「決算の仕方でこういう表現になったのだろう。読売の名を使えば信用もつくので、絶対に読売は出していないが、関東レースがどうしているのか調べる」という、白を黒という答え方で、良くもまあヌケヌケとの、感がしよう。

この時の会社側に、務台が加わっていたことはいうまでもない。だが、この日に、組合は、「スト権確立のための全員投票、開票日は二十五日」を決定している。証拠物件を出されての追及も、苦しい否定でしか答えられない、読売の〝家庭の事情〟に加えて、もう一つ、務台専務に辞任の決意をもたらさしめた事件があったという。

務台あっての〝正力の読売〟

「正力の読売」として、零細企業から中小企業へ、そして、今日の大企業へと育ってきた読売には、いわゆるメイン・バンクがない。前年の暮、正力から三十億の金作りを頼まれた務台は、腹

案として三井、住友、勧銀などの主取引銀行で半分の十五億、これに成功すれば、残り十五億は、群小銀行の協調融資団的なものをつくって……と、考えていたらしい。