正力松太郎の死の後にくるもの p.210-211 「週刊現代」誌の記者の断定

正力松太郎の死の後にくるもの p.210-211 「読売に内紛があるそうですね。正力さんの跡目をめぐって、戦いがはじまっているそうじゃありませんか」私には、即座にハハンときた。例の〝務台文書〟の〝思いもかけない反響〟というのがこれであった。
正力松太郎の死の後にくるもの p.210-211 「読売に内紛があるそうですね。正力さんの跡目をめぐって、戦いがはじまっているそうじゃありませんか」私には、即座にハハンときた。例の〝務台文書〟の〝思いもかけない反響〟というのがこれであった。

社長のいない大会社

かくの如く、〝大きくなりすぎた〟読売新聞には、もはや、〝読売精神〟など、小指の先ほども残ってはいないのだ。それなのに、務台は、「読売精神」を喚起すべく、社中に〝檄〟を飛ばした、という。これが、務台攻撃派に乗ぜられないでおられようか。

八月末ごろのある日、私は用事があって、読売本社を訪れた。たまたま、廊下で務台副社長に出合った。

「キミ、君の指摘した販売店従業員の工科大学校の件ネ。あれは、読売が直接やることにしたよ。これで問題は一まず解決だ。読売本社が、直接、学校にタッチするんだ。……たったいま、会議で決めてきたよ」

私も、わがことのように嬉しくなって「ハ、ハイ。ありがとうございます」と、お礼の言葉を述べていた。私を信じ、私の書く「読売論」を信じて、その苦衷を訴えてきた、一人の〝販売店主〟の声に、こんなにも、卒直に反応する務台の、読売への愛情が私を打ったのであった。

私は、その、嬉しそうに話しかける務台の姿にオーバーラップして、数日前、訪問を受けた、「週刊現代」誌の記者の姿を想い出していたのである。

「読売に内紛があるそうですね。正力さんの跡目をめぐって、すでに、戦いがはじまっているそうじゃありませんか」

私には、即座にハハンときた。例の〝務台文書〟の〝思いもかけない反響〟というのがこれであった。

「証拠はこれです。そう話してくれる人は、二、三人いるのですが、いずれも、誌上に名前を出すのはカンベンしてくれというので、あなたに、名前を出して語ってほしいのですが……」

その記者は、〝務台文書〟を示しながら、読売の内紛、と断定した、カサにかかったいい方をして、私を促した。

彼が社を出る時の、この企画の担当デスクとその男との、会話のヤリトリまでが、ほうふつとするようなインタビューであった。

読売の内紛! 週刊誌のデスク・プラン——それこそ、〝机上の空論〟が描いた青写真は、務台光雄・小林与三次両副社長の対立ということである。この二人の副社長(共に代表取締役)が、ポスト・ショーリキに、社長を争う——ことがあり得るであろうか。

まず、戦後の読売史をふりかえらねばなるまい。