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雑誌『キング』p.136上段 幻兵団の全貌 図・エラブカ民主グループの活動組織

雑誌『キング』昭和25年5月号 p.136 上段 図・エラブカ民主グループの活動組織
雑誌『キング』昭和25年5月号 p.136 上段 図・エラブカ民主グループの活動組織

図版・エラブカ民主グループの活動組織

日本部長・クロイツェル女中尉 文化補佐官・星加薬剤少佐(愛媛) 講演部長・某軍医中佐 A収容所・文化補佐官・後藤典夫 B収容所・文化補佐官・星加兼務
クラブ員 清水達夫少尉(共産党員・日帰同委員長) 福島正夫中尉(東京)鳴沢少尉(広島)中野冨士夫法務大尉(東京)
秘書 加藤正満軍中校(本名・佐々木五郎) 多田光雄少尉(北海道出身・共産党北海道機関紙〝北海新報〟社員)

○各情報係は宣伝、啓蒙の間に現れる傾向をつかみ、系統を経て、一切がクロイツェル女中尉の手許に集まる仕組みになっている。
○クラブ員は民主グループでも急進分子で、秘書にはお気に入りの者がなっていた。

雑誌『キング』p.136上段 幻兵団の全貌 図・エラブカ将校収容所の管理組織

雑誌『キング』昭和25年5月号 p.136 上段 図・エラブカ将校収容所の管理組織
雑誌『キング』昭和25年5月号 p.136 上段 図・エラブカ将校収容所の管理組織

図版・エラブカ将校収容所の管理組織
日本人総首席・花井大佐 補佐官・吉田中佐 副官・荒木少佐
○日本人首席は給与、衛生について管理の責任をもつ。
○思想関係は左表の如くクロイツェル中尉の直接指導下におかれる。

雑誌『キング』p.136下段 幻兵団の全貌 吉田中佐が真相を

雑誌『キング』昭和25年5月号 p.136 下段
雑誌『キング』昭和25年5月号 p.136 下段

この人は二十三年十二月に帰還して、いま東北の小都市で、ささやかなおでんやをやっている。A、B両収容所の総隊本部長、元駐米武官、花井京之助元大佐の補佐官として、エラブカ将校収容所の全般の状況を知っている、この吉田氏はいう。『まだ残留している人が帰ったら、収容所の裏面史と一緒に、〝幻兵団〟の真相を話しましょう。だが、今は何も聞かないで下さい』口をつぐんだ吉田氏は、もはや何も答えようとしない。

ハバロフスクの日本新聞系の〝幻兵団〟と並んで、エラブカ〝幻兵団〟が、事件の今後に演ずる役割は重要なものに違いない。

図版・エラブカ将校収容所の管理組織
図版・エラブカ民主グループの活動組織

三、魂を売らなかった男

銃口の前で誓約書に署名したばっかりに、自由と平和のこの日本で、死の恐怖に煩悶している数千の人たちのために、つぎの二つの実例をあげよう。

㊀杉田慶三氏の場合(談話)

(岩手県気仙郡大船渡町、元主計少尉、ハバロフスクより二十三年十月復員)

私はハバロフスク第三〇分所の大隊附給養係をしていたが、二十一年六月末、同収容所付政

雑誌『キング』p.136中段 幻兵団の全貌 引揚者同盟や親睦会

雑誌『キング』昭和25年5月号 p.136 中段
雑誌『キング』昭和25年5月号 p.136 中段

されていた人の一人は、引揚者同盟の幹部であり、他の一人は官庁資料課長であること。またメムバーの有力な一員が、東京と大阪とで、それぞれ引揚者の親睦会を組織していること。アクチヴだった者にきけば、まったく否定する誓約書の事実も、反動だった者にたずねると事細かに話してくれること。——確かにエラブカ将校収容所が、〝幻兵団〟で果たしている役割は大きいものである。

誓約書を迫られ『日本人だから日本のことは売れない』と、つっぱねたところ、『それでは外国のことならよいだろう』と、つけこまれて、ついに署名をしたという吉田元中佐。

雑誌『キング』p.135下段 幻兵団の全貌 エラブカ帰りに幻兵団

雑誌『キング』昭和25年5月号 p.135 下段
雑誌『キング』昭和25年5月号 p.135 下段

っているし、ソ連でも旧支配階級をつかもうとして、盛んに名門、金持ちの反動連に働きかけていた。荒木貞夫元大将の次男護夫元少佐は『モスクワの中佐の訊問内容から、私を握れば日本の支配階級の中に喰いこめると思ったらしい』と語り、細川元中佐も『私が華族だったというので、私の考え方を知って旧支配階級を支配しようとしたらしい』と、口を合わせている。エラブカ時代はコチコチの天皇護持派でありながら、一月の高砂丸で『直ちに入党します』と第一声をあげて、しきりにアカハタの宣伝に使われている板垣征四郎元陸相の次男正(二六)元少尉を前にして、有田元外相の三男浩吉(三四)元軍医少佐は、〝幻兵団〟に反動が多いということを『三年四年で思想の一変するような奴は、何をやらしても信頼できないからだ。つまりソ連側では、民主グループの奴などを相手にならないと思っているのだ』と、説明しているのは面白かった。

ともかく舞鶴に出張した私が、〝幻兵団〟を探すには、日の丸梯団にいるエラブカ帰りの将校をたずねて、色々と話をきき、それからそれへとたどってゆけば、誓約書の件を知っている人ばかりだった。

〝幻兵団〟で発展する筋はエラブカにある。民主グループの急進分子として、クラブ員と称

雑誌『キング』p.135中段 幻兵団の全貌 女中尉のカバン持ち

雑誌『キング』昭和25年5月号 p.135 中段
雑誌『キング』昭和25年5月号 p.135 中段

った。㊁金持ち、名門、特異な職業の者などを対象としていたこと。㋭反動の偽装と日本における地下潜入をハッキリと示していること。などの諸点である。

背が低く四角いアカラ顔の、そのNK中佐のもとに、モスクワ東洋大学の言語学科出身という腕達者な女中尉が日本人部長として、ニラミを利かしていただけに、一部の極反動を除いては、ほとんどが懐柔されてしまった。ことに、若い尉官たちの活動的な民主運動に圧迫を感じた、参謀肩章の佐官や、中年の尉官たちが、自己保身のために、意外なほど簡単に妥協してしまったらしく、参謀長が部下参謀をさしおいて先に帰還したという例が多い。

ここで女中尉のカバン持ちをしていたという、北海道の多田光雄(三二)元少尉は、『ソ同盟情報部との誓約書にいたっては、ふきだしてくる。これでみるとソ同盟側ではとりわけファシストをえらんで、誓約書をかかせたものらしい』と、アカハタ記者に語っているが、反動に誓約書をかかせたということは事実で、多田氏は〝ふきだしてくる誓約書〟の真相を知って、語るに落ちているわけだ。

今年の一月に入った高砂丸で帰ってきた元男爵細川元中佐参謀なども『〝幻兵団〟には民主グループは駄目で、反動から探している』と語

雑誌『キング』p.135上段 幻兵団の全貌 約一万名のインテリたち

雑誌『キング』昭和25年5月号 p.135 上段
雑誌『キング』昭和25年5月号 p.135 上段

て、はるかに活発であり、ソ連側でも重視していたようである。

ここは欧露最大の将校収容所として、二十一年夏ごろから、各地の将校ばかりが集められた。その総数約一万名、将官一、大佐八〇、中佐一〇〇、少佐二〇〇、文官の中には将官級の人もいたが、残りの九千名以上が尉官と文官というのだから壮観である。これがA、B両収容所に分かれ、さらにカクシャン(農場雑役のため)とボリショイボル(伐採のため)とに、数百名の分遣が出ていた。

幹候出の尉官、陸士出の佐官、それに地方人の文官が加わり、結局全員が一応のインテリであっただけに、この収容所の内情は複雑かつ陰惨なもので、インテリの弱さ、醜さ、冷たさ、などが露呈されてお互いに苦しめ合っていたようだ。

ここの〝幻兵団〟の特色は、㋑最後に誓約書をとったのが、他の一般収容所に現れた〝モスクワの少佐〟ではなく、〝中佐〟だったこと。これでソ側でも、エラブカ懐柔のために慎重だったことが分かる。㋺高級将校や、知識人ばかりだったためか、拳銃などを出して脅迫はしていないこと。㋩誓約書の内容が、他の各地とは違って、詳細かつ具体的に、多数の項目に分かれており、日本における生活の保証まで明示してあ

雑誌『キング』p.134下段 幻兵団の全貌 G氏の在ソ間の行動

雑誌『キング』昭和25年5月号 p.134 下段
雑誌『キング』昭和25年5月号 p.134 下段

たことがない』というが、調査の内容はともかく、呼び出された事実がある。

誓約書の件に関して『初耳』だというが、G氏の在ソ間の行動、民主委員としての活動から、知らないはずはない。また、G氏の学歴その他から、G氏の収容所のスパイ任命事情からいっても、G氏がその選にもれるはずはなく、G氏と親しかった同志たちが、それぞれの誓約の件を私に告白し、口を揃えてG氏も同じだという。

以上のような点から、私のG氏に対する確信は、深まりこそすれ、彼の否定にたじろぎはしなかった。

私はずっとG氏の行動を引続き注目しており、やがて彼自身の口から、真相の一切を聞ける日は近いと思っている。G氏もまた恐怖におののく一人だということを思えば、彼がたとえ一仕事果たしたとしても、ざんげと贖罪によって、彼は許されねばならない。

二、エラブカ将校収容所

〝幻兵団〟がその性格から、知識階級を主な目標にするのは当然なことである。この収容所には幹候出身の尉官がたくさんいたので、〝幻兵団〟の生産地としては、他の一般収容所に比べ

雑誌『キング』p.134中段 幻兵団の全貌 霞ヶ関の某官庁に

雑誌『キング』昭和25年5月号 p.134 中段
雑誌『キング』昭和25年5月号 p.134 中段

緊張を示し、恐怖か嫌悪を感じていたことを物語っている。

また、✕✕✕と聞いただけで、いままでの警戒心を解いたことについては、『✕✕✕の某局長が中学の同窓生なのでその人の紹介だと思った』と弁解したが、帰京後某局長に質すと、『G氏の名前だけは知っているが、人を紹介したり、されたりする仲ではない』と答えた。すなわちG氏には、某局長以外の人物で、✕✕✕に心当たりがあるのだが、ことさらにその人をかくして、思い付いた某局長の名をあげたと、考えられる。

年末に日帰り上京したことについては『暮れの忙しいのにそんな暇があるものですか』と否定したが、私がG氏の身辺調査に着手する以前に、G氏の自宅で、訪客に対しておのずから問わず語りに、上京の事実について話している。

しかもこの上京が『✕✕✕に用事があって』と称されているので、某局長の名をあげたこととともに疑惑を深めている。

合言葉に対する表情の激変と、小さな叫びをもらしたことに対しては『初対面の男が名前も名乗らずに事業の話などするので、失敬な男だと腹を立てた』と弁解したが、その時の反応は、私の経験からいって、そんな簡単なものではない。

G氏は『舞鶴では米軍の一般調査すらも受け

雑誌『キング』p.134上段 幻兵団の全貌 五回も席を立つG氏

雑誌『キング』昭和25年5月号 p.134 上段
雑誌『キング』昭和25年5月号 p.134 上段

うしてオイソレと、このような〝恐るべき秘密〟を打ち明けられようか。こう考えた私は、再考の時間を与えるべく、『よく考えてみてください』といって、再会を約して帰るより仕方がなかった。〝幻兵団、駒場〟はG氏に違いない。すべての傍証は固まっている。だが、G氏は否定する。

あわただしい歳末の出張から帰京するや、直ちにG氏の否定の言葉の、裏付け調査に取りかかった。東京ではクロくなった。さらに舞鶴に飛ぶ、ここでもクロだった。つまりG氏は、否定するのにウソをついたのだ。

対談中のG氏は、㋑時々苦しそうな表情を浮かべた、㋺煙草に火をつける時マッチの手が震えていた、㋩一時間あまりの間に五回も席をたち、そのたびに数分ずつ私の前から姿を消した。お茶の取り換え三回、煙草の購入一回、来客の名刺一回、いずれも席を立つ必要はなく、ベニヤ板一枚の外には給仕がいるのだから(ズッと気配がしていた)、声を出してお茶と煙草(私の持っていたいい煙草をすすめたが取らない)を命ずればよいはずであり、ことに給仕が『この方が名刺を置いて帰られました』といって名刺を持ってきた時などは、席を立つ理由がまったくない。これは結局、会話の雰囲気に堪えられなくて私の話を寸断しようとしたものだ。

この三点は、彼がこの問題に対して、精神の

雑誌『キング』p.133下段 幻兵団の全貌 写真・引揚げたハルビンのダンサー

雑誌『キング』昭和25年5月号 p.133 下段 写真・ダンサー
雑誌『キング』昭和25年5月号 p.133 下段 写真・ダンサー

(写真キャプション:中共治下享楽追放で引揚げたダンサー、混血のマタハリもいる?)

雑誌『キング』p.133上・中段左 幻兵団の全貌 写真・銀座通り

雑誌『キング』昭和25年5月号 p.133 上段・中段 写真・銀座通り
雑誌『キング』昭和25年5月号 p.133 上段・中段 写真・銀座通り

(写真キャプション:スパイ団の連絡場所があるといわれる銀座通り)

雑誌『キング』p.133上・中段 幻兵団の全貌 「事業は成功していますか?」

雑誌『キング』昭和25年5月号 p.133 上段・中段
雑誌『キング』昭和25年5月号 p.133 上段・中段

いますか?』

『エ、エ?』

彼は、恐怖と驚きと怒りとの交錯した、怯えたような叫びをもらした——そこで、私は静かに記者の名刺をさし出したのだった。

私が新聞記者であり、新聞が〝幻兵団〟を

とりあげるために、自分の告白を聞きにきた、という来意を知った時、彼の態度は再び一変した。対談一時間余り、彼は徹頭徹尾、私の話を全面的に否定し続けた。最後には面会の打ち切りをいいだしてきた——一面識もなく突然たずねてきた男、それも新聞記者であってみれば、ど

雑誌『キング』p.132下段 幻兵団の全貌 与えられた合言葉は

雑誌『キング』昭和25年5月号 p.132 下段
雑誌『キング』昭和25年5月号 p.132 下段

その男は、私と同じように注意深く、しかも疑わしそうに、さらに反問する。私は新聞記者と名乗る前に、彼に与えられたはずの、合言葉を使ってみて、彼の反応をみなければいけない。とっさに私は、彼がさきごろ✕✕✕の用事と称して上京したことを思い浮かべた。✕✕✕というのは、東京霞ヶ関付近のある役所の名前だ。彼が歳末の忙しい時に、そこの用事のために、日帰りでも行かねばならないというからには、必ず何か関係があるに違いなかった。マサカ、私の知らない合言葉ではあるまい。それとも、連絡場所かな?

『アノウ、実は✕✕✕の……』

語尾は不明瞭にニゴしてしまう。反応は!?

『アア、そうですか。どうぞこちらへ』

果たして、彼の疑い深い慎重な態度は一変してしまい、心安く応接室に招じ入れてくれた。✕✕✕の誰ともいわず、もちろん私の名前も告げないのに、✕✕✕だけでこのように態度が変わるのは、やはり合言葉だろうか。

やがて彼(G氏)は、ベニヤ板一枚の仕切りをあけて現れた。歳末の挨拶ののちに、私はそのまま名前を名のらず、〝駒場〟に与えられたはずの合言葉を、反応試験の切り札として投げつけた。

『ときにどうです……あなたの事業は成功して

雑誌『キング』p.132中段 幻兵団の全貌 G氏に直接ぶつかる

雑誌『キング』昭和25年5月号 p.132 中段
雑誌『キング』昭和25年5月号 p.132 中段

と県庁所在地をはじめ数市しかない。まず、それらの各支局にロ、ハ、ニ、ヘ、トの五条件該当者の調査を依頼した。しかし目的を明かさなかったためか、似かよった報告は数件きたが、どうも思わしくない。職業と居住地に対するカンから、私は小都市の○○市と判断して、出張してみた。居た! すべての条件に該当するG氏を、ついに発見した。

G氏の身辺調査をはじめる。彼は自宅に遊びにきた知人に、『私はこの間、✕✕✕に用事があって、商用もかねて日帰りで上京してきました』と、話のついでに自ら語ったことが判明、商大卒の学歴、政党、思想的関係は表面上なし、父親との折り合い悪し、など分かる。

私はついに直接ぶつかる決心をする。

『Gさんにお眼にかかりたいのですが』

小さな事務室では、二人の男が現金の計算をしており、女の子の給仕が一人いた。私は正面のG氏とおぼしき男に向かって口を切った。

『どちらさんでしょうか?』

その男は、自分はGである、と名乗る前に、アリアリと警戒の色を浮かべて、そう反問してきた。この男こそG氏だ、と直感して、私は注意深く相手の表情や態度を見守りながら続ける。

『東京から参った者ですが』

『どなたの御紹介でしょうか?』

雑誌『キング』p.132上段 幻兵団の全貌 資産と社会的地位あり

雑誌『キング』昭和25年5月号 p.132 上段
雑誌『キング』昭和25年5月号 p.132 上段

〝まぼろしのような兵団〟の幻のヴェールを、一枚ずつ紙面の上でハギ取ってみて、引揚者たちの悩んでいることが、果たして〝幻影〟かどうかを確かめよう。これが読売の〝幻兵団〟と名付けた、紙面効果の狙いだった。そして、八回にわたって、ハギ取られ、ヒンむかれた幻のヴェール。そのかげから現れてきた正体は?——その返事に、『新聞記者のメモ』をのぞいてみよう。

(一) ホンボシ会見記

ホンボシというのは、ホントのホシ(犯人)で、真犯人という言葉だ。私が知っている何人かの〝幻兵団〟のうち、一番面白かったG氏との会見の模様を述べよう。

イ、偽名 駒場 某
ロ、抑留地区 西シベリア○○○○○
ハ、復員年月日 二十三年九月○○日
ニ、年齢 四十歳前後
ホ、居住地 ○○近県
ヘ、家庭の状況 資産と社会的地位あり
ト、職業 ○○○と旅館経営

この七つの条件を備えた〝幻兵団〟は、すでに一仕事を果たしているという。

『ヨシ、この男を探し出そう』私は考えた。職業から判断して都市居住者だ。居住地からいう