p69下 わが名は「悪徳記者」 私のすべてが読売のものだと信じていた

p69下 わが名は「悪徳記者」―事件記者と犯罪の間―三田和夫 1958 「東京租界」では一千万ドルの損害賠償、慰藉料請求が弁護士から要求され、文書では回答期限を指定してきた。辻本次長は、『面白い、その裁判が凄いニュースだし、継続的特ダネになる』とよろこんだ。
p69下 わが名は「悪徳記者」―事件記者と犯罪の間―三田和夫 1958 「東京租界」では一千万ドルの損害賠償、慰藉料請求が弁護士から要求され、文書では回答期限を指定してきた。辻本次長は、『面白い、その裁判が凄いニュースだし、継続的特ダネになる』とよろこんだ。
p70上 わが名は「悪徳記者」―事件記者と犯罪の間―三田和夫 1958 危険を冒したりして会社に迷惑を与えず、企業としての合理的かつ安全な、その上幹部のためにのみなる社員――これを「新聞」という企業が要求するような時代に変っているのではあるまいか。 初出:文芸春秋昭和33年10月号/再録:筑摩書房・現代教養全集第5巻マス・コミの世界
p70上 わが名は「悪徳記者」―事件記者と犯罪の間―三田和夫 1958 危険を冒したりして会社に迷惑を与えず、企業としての合理的かつ安全な、その上幹部のためにのみなる社員――これを「新聞」という企業が要求するような時代に変っているのではあるまいか。 初出:文芸春秋昭和33年10月号/再録:筑摩書房・現代教養全集第5巻マス・コミの世界

「東京租界」では一千万ドルの損害賠償、慰藉料請求が弁護士から要求され、文書では回答期限を指定してきた。それと聞いた辻本次長は、『面白い、その裁判が凄いニュースだし、継続的特ダネになる』とよろこんだ。

それなのに、千葉銀と聞いただけで、原稿は読まれもしない時代に変っている。書くことを命令したあげくの果てに!

私は、私のすべてが読売のものだと信じていただけに、取材費も遠慮なく切った。たとえ、それがそのまま飲み屋の支払いにあてられる時も、「会社の為になる」という信念があったからだ。

ニュース・ソースの培養は、何も事件のない時が大切だからだ。部長の承認印をもらう時、伝票の金額を横眼で読み取る先輩。後輩の名をかりて伝票を切る記者。出張の多い同僚をウラヤましがる男。ETC。これが一体、「新聞記者」だろうか。

「新聞記者」の採用試験には、やはり花形職業として人気が集中されている。だが、採用される今の記者には、記者の職業的使命感など、全くない。

取材費を切るためには、やはり名目がなければならないし、それだけ余分に働かねばならない。その位なら一層のこと、取材費も切らず、仕事もせず、サラリーだけのお勤めをして、そのうちにはトコロ天式にエラクなろうという、本当のサラリーマン記者がほとんどである。

今、こうして、失敗して退職する結果になってみると、私には萩原君の「もしかすると、もうオレたちの方が古いのではないか」という呟きが想い起される。会社の金をできるだけ使わずに、サラリーだけ働き、危険を冒したりして会社に迷惑を与えず、企業としての合理的かつ安全な、その上幹部のためにのみなる社員――これを「新聞」という企業が要求するような時代に変っているのではあるまいか。

(「文芸春秋」三十三年十月号)