はしがき
昭和二十五年一月十一日付の読売新聞は『シベリアで魂を売った幻兵団』という大きな横見出しのもとに全面をうずめて、ソ連地区抑留日本人の組織するソ連スパイ網の事実をスクープした。
拳銃、誓約書、合言葉、日本語の美人、賞金。あまりにも道具立ての整いすぎた、探偵小説そのままのようなこの記事に対して、読者の多くはスリラー的な興味を覚えながらも、やはり半信半疑の感があったに違いない。
なぜかといえば、次のような疑問が湧き起こってくるのが当然であろう。その一は、すでに戦争を放棄して自由と平和の国として立ち直りつつある現在の日本に、血なまぐさい国際スパイ団的な秘密組織があり、しかもそれには多数の日本人が参加しておって、もはや〝冷たい戦争〟以上の事実が展開されているということは信じ