三、組織の全貌
ここにあげた五人の場合によって、死の脅迫と、帰国優先の利によって組織された、スパイ網の存在は、もはや疑うことのできない事実であることが明らかになったであろう。事件はようやく始まったばかりであり、今後の調査に影響があるため、仮名を用いたものもあるが、略歴を示した通り、いずれも都内に実在する人物である。
この五人の例は、ただ氷山の一角にすぎなく、何十人という人々の告白によって、〝幻〟の如くに思われたその実態も、次第に明瞭なものとなってきた。収容所の地区も、イルクーツク、バルナウル、エラブカと、東部シベリアから西部シベリア、さらに欧露と西漸するかと思えば、南下してカザック共和国のアルマアタ州に移り、さらに東に飛んでハバロフスク、ウォロシロフというように、全ソ連地区をおおっている。
また使命に関しても、A氏、B氏の如く在ソ