この人は二十三年十二月に帰還して、いま東北の小都市で、ささやかなおでんやをやっている。A、B両収容所の総隊本部長、元駐米武官、花井京之助元大佐の補佐官として、エラブカ将校収容所の全般の状況を知っている、この吉田氏はいう。『まだ残留している人が帰ったら、収容所の裏面史と一緒に、〝幻兵団〟の真相を話しましょう。だが、今は何も聞かないで下さい』口をつぐんだ吉田氏は、もはや何も答えようとしない。
ハバロフスクの日本新聞系の〝幻兵団〟と並んで、エラブカ〝幻兵団〟が、事件の今後に演ずる役割は重要なものに違いない。
図版・エラブカ将校収容所の管理組織
図版・エラブカ民主グループの活動組織
三、魂を売らなかった男
銃口の前で誓約書に署名したばっかりに、自由と平和のこの日本で、死の恐怖に煩悶している数千の人たちのために、つぎの二つの実例をあげよう。
㊀杉田慶三氏の場合(談話)
(岩手県気仙郡大船渡町、元主計少尉、ハバロフスクより二十三年十月復員)
私はハバロフスク第三〇分所の大隊附給養係をしていたが、二十一年六月末、同収容所付政