治部員の上級中尉からスパイたることを強要された。
第一回は収容所事務室で鍵をかけられ、調査尋問ののち誓約書をかけと迫られたが、『日本人の不利になる事は御免だ』
と断ってしまった。
それから約二週間して、収容所本部(街の中央にある)から自動車で呼び出しがあり、収容所付政治部将校に伴われて出頭した。
調査事項は前と同じで、日本語のうまい通訳を通じ、本部の政治部主任らしい少佐に、あるいはおどし、あるいは利をもって誘われた。
『君がこの誓約に署名したならば、帰国も一番先にしてやるし、君のためにも非常によい事がある』
『嫌だ』
『君は強情を張るけれども、一晩営倉に入るとすぐ目覚めるのだ。今のうちに腰を折った方が身のためだよ』
『嫌だ』
『もし君があくまで拒絶すれば、君の階級は剥奪されて、そして一般兵と一緒に石炭積みをしなければならなくなるだろう』
『それもやむを得ない、ともかく日本人を売ることは、俺にはできない』
少佐は怒りの表情もものすごく怒鳴った。