黒幕・政商たち p.092-093 親分は、何ていう人だい?

黒幕・政商たち p.092-093 「第一、もうじき選挙でしょう? 福田赴夫を蹴落すため、田中角栄側から高く買いにきているンですよ」Yの第一声であった。
黒幕・政商たち p.092-093 「第一、もうじき選挙でしょう? 福田赴夫を蹴落すため、田中角栄側から高く買いにきているンですよ」Yの第一声であった。

「潜入屋」という新商売

新聞記者ともツー・カー

「こんな喫茶店なんかで、私からネタを取ろうなんて、ダメですよ。私だってモトをかけているんだから……。第一、もうじき選挙でしょう? 福田赴夫を蹴落すため、田中角栄側から高く買いにきているンですよ」

Yの第一声であった。情報源との接触には、場馴れたハズの私も、流石に先手を取られた感じであった。彼の話によると、流通機構会社のネタで、もう小一年ほどは、遊んで喰っているという。

「何しろ、福田ピン(一)さんの選挙区だけでも、数カ月も滯在して調べたンだから、モトもテマもかかっているンだ。しばらくは遊ばせてもらわなけりゃ……」

だが、彼のレインコートのエリは真ッ黒に汚れて、それほどラクなくらしとは思えなかった。年のころは、三十四位。

「キミに命令している親分は、何ていう人だい?」

「エッ!」

不意打ちの質問に、彼はガク然として十分な反応を見せた。

「そんなこと、いえませんよ」

「じゃ、判るまできかないよ」

ようやく、イニシアチブを取りもどした私は、第一回の会見を打ち切った。数週後の第二回目。彼は少年院友だちのCという男に、私の名前を聞いてきたといって、(私の名は、安藤組事件から彼らアウト・ローの世界では、いっぱし通用するらしい)雑談の間に、ポロポロと内容をもらしはじめた。以下は、彼の話を総合的にまとめてみたものであるが、もちろん、裏付け取材はまだである。

流通機構という会社がスタートしたとき、彼は組織から命ぜられて、その社員としてモグリこまされた。いわゆる投入牒者である。そして、会社の実態を目の当りにみてきたのである。もちろん、報告をして、その分の報酬が彼の手に入った。会社の末期には、事務所荒らしを装って、ロッカーを破り、重要な書類を盗んだり、コピーしたりした。

重要なものでは、会社設立の時の、政財界人たちの、賛同の署名簿があるし、麻生議員は軽くイナされてしまったが、福田蔵相は『承諾した事実がない』というのにもかかわらず、同氏 の会長就任承諾書まである。署名捺印がしてある。