トカゲが尾を断ち切って逃げのびるように会社は内山知事を発起人から消した。そればかりではない。ランドの四面楚歌ぶりに驚いたのか、会社リーフレットに、社長予定者として名を出していた、日銀理事の山村鉄男氏は一足先に、東洋観光社長に就任して、これまた去った。
高級官僚という〝難物〟
河野派の牛耳る県議会もまた、ランド反対、内山知事弾劾の動きを見せ、県会議長小川要の名前で、県理事者へ意見書が出された。
「県は当初の計画通り、公園の具体化をはかれ。知事が営利を目的とするランドの発起人に参画している事実は理解に苦しむ。善処を要望する」と。
四月七日の総会の席上、御喜家氏は「土地問題が解決せず、会社が流産したら、払込金には銀行利子をつけてかえす。会社経費は自分と小谷氏名儀の三千万円で賄い、株式代金には手をつけない」旨を声明し、これを個人的念書として株主に出した。反対派からは出来ない会社を作って金を集めたのはサギだ、株式払込金を使えば背任横領だ、捜査二課が内偵している、と、株主たちを不安がらせる〝風聞〟が流されているのに応えたものである。
山村氏に代って、社長となった市村清リコー社長は、このような事態に対し、「百名に余る財界トップの方々が、一部の妨害にくじけるようなことがあれば、日本財界に取り返しのつか
ぬ汚点を残すことになります……。私は義憤を感ずるのです。いかなる迫害、妨害にもめげず、私は断乎やり通すことを、ここに誓約いたします」と、悲壮とも、ごう慢とも取れる挨拶を行って、その決意を語ったほどである。
だが、市村社長の決意にもかかわらず、一流財界人九十八名発起にかかるランド計画は全く〝一部の妨害〟によって、フン詰りの状態になってしまった。進むも退くもならないのである。ということは、この九十八名の連名には、みんなの意思統一による「財界」という形での、ランド建設計画ではなく顔見世興行的な、個人参加の形での財界スターのオールスター・キャストであったから、ジャーナリスティックなけんらん豪華にすぎないのであって、大向うをわかせることはできても感銘を与える芝居にはならないのであった。
つまり、〝鬼面人を驚かす〟態のハッタリにすぎないことが、政界、官界ともに見すかされていたのである。政治家や大蔵省の高級官僚たちの受ける印象からいえば、単なる財界個人の〝個〟の圧力しかなく、しかもそれが、連名によって九十八分の一に弱められているのである。それに加えて、御喜家氏への風当りが強く、そうまでされると、財界人たちが躍らされているといった感じも伴い、いよいよランド支持の魅力を失ってしまうのである。
市村氏のいう一部の妨害とは、明らかに河野派の妨害であり、それは当然、親方河野一郎氏の了解、もしくは指示によると解されるのだから、尚更のことである。「力は正義なり」方式
で、河野氏の実力振りになびかざるを得なくなる。