黒幕・政商たち p.160-161 兵庫県警と麻薬一つのミステリー

黒幕・政商たち p.160-161 警部が、若いマッサージ師と、日光で心中した事件があった。これが、麻薬のヴェテラン刑事で、結果は〝中年男の愛欲行〟とされてしまったのだが……
黒幕・政商たち p.160-161 警部が、若いマッサージ師と、日光で心中した事件があった。これが、麻薬のヴェテラン刑事で、結果は〝中年男の愛欲行〟とされてしまったのだが……

麻薬Gメン〝愛欲行〟の謎

背後関係のからむ自殺説

「大阪府警では、兵庫県警に連絡すると情報洩れになると、二課でも四課でも警戒してますよ」——府警記者クラブでの話。

「昨年秋に、兵庫県警本部から、神戸水上署の保安課長に栄転した警部が、若いマッサージ師と、日光で心中した事件があった。これが、麻薬のヴェテラン刑事で、結果は〝中年男の愛欲行〟とされてしまったのだが……」ある麻薬取締官はこう語りはじめる。兵庫県警と麻薬——ここに一つのミステリーがある。

四十年十月三日、奥日光の中禅寺湖畔の国有林で、キノコ採りの男が、心中死体を発見して日光署に届出た。そして、それから五日経って、その死体の身許は八月三十日から行方不明になっていた、元神戸水上署保安課長松尾長次郎警部と十九歳のマッサージ師E子さんであることが確認された。その年の三月の異動で県警本部から水上署の保安課長に転任した、麻薬と密輸のべテラン。四十三歳の警部の、若い女に夢中になった、愛欲行とみられたのだった。

だが、「週刊新潮」誌によれば、どうも、単なる〝愛欲行〟とは考えられないようだ。二人の足取りは、九月一日のひるごろ、日光観光ホテルに現れ、一泊して、タクシーで中禅寺湖に向い、九月四日付日光局消印の手紙が、松尾警部の妻と、女の母親宛に出されているだけしか判らない。

この手紙にもとづいて、九月十日、水上署の刑事二名がホテルにやってきた。支配人に女の写真を見せて、宿泊の有無をたずね、宿帳の筆跡に「間違いない」とうなずいた。

「麻薬の捜査だ。部屋に注射器、クスリ包みのようなものがなかったか」とルーム・メイドにたずねた。「クズカゴの中に、クスリ包みのようなものがあったが捨てた」という答えを得ている。

水上署では、警部の失跡理由を、「もともと実直な人で、女の妊娠をオロスというチエも、駈け落ち前に依願退職して退職金を受け取る分別もなかったか」と、単なる〝中年男の愛欲行〟にすぎないというのだが、麻薬とその背後関係のからんだ自殺説もあるという。

というのは、「愛欲のための失跡」に対して、刑事二名を出張捜査させることがオカシイし、それへの批判に対しては「捜査費用は後日遺族に請求する」といっているのだが——と、同誌は疑問を投げている。

事実、神戸水上署の保安課長といえば〝陽のあたる場所〟である。それをしも若い女に狂っ

て、棒にふることはあり得よう。だが、それならば、妻と女の母親への手紙で〝愛欲行〟は判っていたのである。どうして、水上署の刑事二人が遠い奥日光まで、追って来なければならなかったのだろうか。