黒幕・政商たち p.170-171 麻薬王・王漢勝、欧金奢、李忠信

黒幕・政商たち p.170-171 近藤—阿知波—鈴木のトリオは、王漢勝のすぐ下のクラスの欧金奢を逮捕した。五島会の内偵の結果、洪盛貿易公司の李忠信逮捕へと勇み立ったのである。
黒幕・政商たち p.170-171 近藤—阿知波—鈴木のトリオは、王漢勝のすぐ下のクラスの欧金奢を逮捕した。五島会の内偵の結果、洪盛貿易公司の李忠信逮捕へと勇み立ったのである。

もちろん、中国人の麻薬の商品見本として持っていたヘロイン三一八グラムの不法所持だ。所長は、第五八条によって

鈴木から譲り受けたそのヘロインの、譲り受け責任はない。ここが、警察官の捜査と違う点である。

警察官の麻薬捜査も、現実には、刑法の総則(正当行為による犯罪の不成立)を拡大解釈して、麻薬の譲り受けを認めているが、原則的には、麻薬取締官だけである。だから、警察官は、エス(取締官はインフォーマーという)もろとも、逮捕してしまうし、尾行、職質など、自分たちが直接、麻薬に手を触れなくとも検挙できる捜査能力と組織とを持っているのである。

近藤所長の栄転後の初戦果に、本省はじめ近畿事務所は、すっかり張り切ってしまった。そして、麻薬撲滅のための水際作戦のため、鈴木の保釈を検事に運動して、情報提供者に仕立ててしまう。

極道、ヤクザ、グレン隊——このような人種ほど、権力に弱い卑劣な人間たちはおるまい。自分の悪事を反省するどころか、自分の罪を軽くしてもらうとか、釈放されるとかいう、私利私欲のためにだけ忠実で、仲間を裏切り、権力に迎合し、へつらう。鈴木とて、例外ではなかったのである。

そして、麻薬取締官という、国家権力の執行者であった近藤所長はじめ、三人の取締官は、鈴木を過大評価し、鈴木の狎れに馴染み、権力と権力の走狗というつながりを忘れて、人間感情を持ちすぎた結果、やはり、裏切られたのである。鈴木にとっては、取締官と警察官との、

二つの〝権力〟をハカリにかけて、今、自分を逮捕して、自分の自由を拘束している、兵庫県警に迎合することの方が、重大だったのである。

女を抱いて収賄

さて、忠誠を誓った鈴木の手引きで、神戸でカオを知られていない、東海地区事務所の阿知波取締官が大阪に派遣されて、麻薬暴力団「五島会」に潜入する。彼は偽名して、横浜で麻薬事犯指名手配をうけ、神戸に逃げてきた、鈴木の客人ということで、旅館住いの男。

近藤—阿知波—鈴木のトリオは、その年の暮に、王漢勝のすぐ下のクラス(在日幹部)の欧金奢を逮捕した。再びクリーン・ヒットである。五島会の内偵の結果、王なきあとの在日責任者は、洪盛貿易公司の蔡某こと李忠信と判明、本省の許可もとって、李忠信逮捕へと勇み立ったのである。大隊長クラスではあるが、欧金奢ともども、在日の大物であることは間違いない。

鈴木の紹介で、鈴木より一クラス上にランクされる、山清組の高橋正一が、同じようにインフォーマーになった。密輸外国船の中国人船員を捕えるためだ。だが、この時期から、鈴木は鈴木で秘かにある計画を練っていたらしい。つまり、高橋を紹介し、取締官に中国人船員の面割り(メンワリ。顔を覚えさせる)と称して、彼らを船に連れこみ、税関のフリー・パスを狙

ったものだ。