「アンタ、何て名前だっけね」
「ハイ、鈴木勝五郎です」
支部サンは、掌に字を描いて、その名前の画数を数えていたが、吐き出すように、自信をこめて断言した。
「色情だよ! オ前さんには、名前の示す通り、色情のインネンがあるンだよ。だから奥さんに逃げられたんだ」
「ハ、ハイ」消え入りそうな声だ。
「だけどね。熱心に信心すれば、この教えは有難いもんでね。御利益があるよ。妙佼先生の有難いお手配でね、前の奥さんが知ったら口惜しがるような、いい奥さんがまた御手配になりますよッ」
高圧的にいいきる支部長の言葉は、確かに神のお告げのように、何かいいようのない新しい力を、私の体内に湧き起らせた。
また、新しいオヨメさんがもらえる! 現実には八年の古女房が、二人の子供とともにデンと居坐っている私にさえ、この言葉は不可思議な魅力を持っていた。ただし〝熱心に信心すれば〟イコオル〝うんとおサイ銭をあげれば〟である。
社へ帰って報告したら、景山部長はじめ社会部のデスクは爆笑につつまれた。
「これァ邪教じゃないよ。ズバリ、最初に色情のインネンがあると喝破したからな」
「妙佼サマのお手配で、またオヨメさんがもらえるなら、オレも信者になるよ」
と大変な騒ぎだった。
その後の法座で見聞したところによると、男の入会者はすべて、「色情のインネン」「親不孝」のどちらかである。聖人君子はさておき、男の子でこの二つに該当する過去をもたないものはあるまい、女に対しては、「シュウト、シュウトメを粗末にしたからだよ。思い当ることがあるだろ?」である。これもまたムベなるかなである。
三百円ほど支払って、タスキなどの一式を買わされ、翌日は導き親であるオバさん宅の総戒名、支部サン宅のオマンダラ(日蓮上人筆の経文のカケ軸)、本部と、三カ所へお礼詣りだ。
お礼詣りが、無事とどこおりなく済むと、翌々日は祀り込みだ。本部で頂いた鈴木家の総戒名を、支部の幹部が、私の自宅へ奉遷し参らせて、諸霊安らかに静まり給えかしと、お題目をあげる儀式である。
このことのあるのは、かねて調査で判っていたから、城西のある古アパートの一室を、知人の紹介で借りておいた。家主には事情を話し、チャブ台その他、最少限の世帯道具も借りておいたのであった。
幹部婦人の愛欲ザンゲ
その当日、幹部サンと導き親のオバさん、それにもう一人、佼成会青年部の妙齢の乙女と三人が、連れ立って本部からそのアパートへやってきた。
儀式が終ってから、幹部サンはやがて法話のひとくさりをはじめたのであった。その法話も、
いつかザンゲに変っていた。