East is west and west is east and I am the twain that will make it so.
(東は西、西は東、われこそはそれを結ばんとする二なるもの)
文学にくわしい人なら、この文章が、英国の詩人キップリングの有名なことばを、うらがえしたものだと気付くだろう。
East is east, and west is west, and never the twain shall meet.
(東は東、西は西、二つはついに相見ゆることあらじ)
この手紙の受取り人、笠井重治氏は、戦前山梨県選出の代議士で、戦後は当選一回、落選三回、現在は民主党に属し、フィリピン友の会理事である。
笠井氏は今年四月、オシアス氏が来日したとき、フィリピンのパラワン群島の西方、南支那海の小島に、Kingdom of Humanity(ヒューマニティ王国)と名乗る国があり、日本との国交を望んでいる。君、一つ領事になってくれないかといわれた。オシアス氏だけに、私も引き受けることにした。
オシアス氏が、今年四月に来日したのは、オシアス氏が所属するフリーメーソンの第三階級を、鳩山首相に授けるためだった。
フリーメーソンとは、国際的な半宗教団体で、日本でも戦後に支部が結成され、前参院議長佐藤尚
武、元王族李垠、日米協会長小松隆氏、それに笠井氏など約五十人がメンバーとなっている。オシアス氏は、フリーメーソンの中での最高位である三十三階級を持ち、笠井氏はこれに次ぐ三十二階級だという。オシアス氏は、日本へ来る前に、すでに「ヒューマニティ王国」の、フィリピン駐在名誉公使を引受けており、フリーメーソンの関係で親しかった笠井氏に総領事を、同じく笠井氏の知人で、保険業を営んでいる米人アル・シャタック氏に領事を依頼した。
そしてもう一つは、六月十四日午後、大挙羽田へ降り立ったMRA(道徳再武装運動)国際使
節団の一行である。一行はアメリカのミシガン州で行われた、MRA世界大会に出席したあと、アジヤ、中近東諸国を親善訪問のため来日したもので、風刺劇〝消えゆく島〟を東京で三日間、大阪で二日間公演したのち、二十二日台湾へ向った。
これについて、六月十七日付朝日の「素描」欄は、次の通り述べている。
MRAの一行二十数ヶ国民百八十名がやってきて、〝大デモ〟をやっている。デモ祭典の中心は「消えゆく島」上演で、これは東の勤労者独才国と、西の民主国のいがみ合いから融和への、政情風刺のコミック・オペレッタだが、なかなかよくできている。
目先が変っているので、見ていてつりこまれる。そこが〝目的〟でもあろうが、これまでの宗教にも、政治にもないデモの様式である。最も国際的で近代的に大衆に訴える力がひそんでいる。
東京公演がすむと、大阪、そして中近東までいくという。それにしても、入場無料で上演しまくる。
このメムバーの資金やヒマは、どこから出るのだろう。貧乏な日本人にはちょっと気になる。
このような現象をどう眺めるか。その一つ一つをみれば、いずれもまっとうな話で、少しも不思議ではない。しかし、私はこれらの現象を、シネラマ風に眺めてみたい。
第一に「博愛王国」の話である。笠井氏の総領事と同時に、その知人の保険代理業R・シャタック氏が領事に任命されたという。
R・シャタック氏について語ろう。氏は冒頭に述べた仮名のQ氏その人である。氏については、二十九年九月十五日付読売の記事を引用しよう。