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最後の事件記者 p.012-013 先客の一人が浅草のヨネさん

最後の事件記者 p.012-013 『あんた、何です?』 何罪でパクられたのかということだ。私は心中ニャリとした。
最後の事件記者 p.012-013 『あんた、何です?』 何罪でパクられたのかということだ。私は心中ニャリとした。

しかし、旅馴れた私は早くも担当サンの眼を盗んで、横になって午睡をたのしん

でいたところだった。

二十五日間も暮らしたが、誰もブタ箱などという者はいない。つまり、往時の、不潔極まりない房内から、ブタ箱という名が生れたのだろうが、出たり入ったり、また出たりのオ馴染みさんでさえ、留置場という。ブタ箱という名は、全くすたれたようだ。

それほどに、留置場は清潔であり、目隠し塀のついた水洗便所、消毒された毛布、白いゴハンと、設備、待遇ともに、犯罪容疑者の詰め所としては、立派であった。

それにしても、電話とは!

私はまだ、記者クラブにでもいるような、錯覚におちいった。呼びかけた男の顔をみて、留置場だナ、と思い返したほどである。大辻司郎と吉屋信子、この二人にフランキー堺を足したような顔のその男は、〝浅草のヨネさん〟といわれる、パン助置屋の主人であった。

管理売春という、売春防止法でも重たい罪の容疑で入っている男だったが、人柄は極めてよく、フランキーのような明るさと機智とを持っている男だった。

私がこの房に転房してきた時、先客が二人いた。カタギの私は、この別世界の礼儀作法を良くは知らなかったが、普通の人間社会の礼儀を準用すれば間違いはないと考えた。

『どうかよろしくお願いします』

私は頭を下げた。両手をつくほどの必要はあるまいと思ったので、小腰をかがめただけだ った。「十一房、ロの二六五番」というのが、私の認識票で、それが書きこまれた、小さな 木札を入口の表札差しに、差しこんでおくのだ。

『……』

先客二人も、軽くうなずく。私はその房では新入りなので、一番奥の、一番下座である便所のそばに腰を下した。

二人の世界が、彼らの意志とかかわりなく、三人になったのだから、この第十一房という、 小さな社会の構成要件が変ったことになる。つまり、革命だ。新しい社会秩序を確立しなければ、誰もが落ちつけない。

それには、この新入りの階級的出身と、社会的序列とを知る必要がある。旧支配階級が声をかけた。

『あんた、何です?』

何罪でパクられたのかということだ。私は心中ニャリとした。この質問を待っていたからであ る。