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最後の事件記者 p.044-045 「バカヤロー奴」と舌打ち

最後の事件記者 p.044-045 〝事件を知らない〟記者が早くエラクなる。何故かといえば、事件をやると、失敗して傷つく確率がふえるからである。危険率が多いのである。
最後の事件記者 p.044-045 〝事件を知らない〟記者が早くエラクなる。何故かといえば、事件をやると、失敗して傷つく確率がふえるからである。危険率が多いのである。

この傾向は、本職のデカたちの間にもあるのだから面白い。強力犯を扱う捜査一課の刑事たちを横目にみて、会社から押収してきた帳簿類を調べながら、智能犯を扱う捜査二課の刑事たちは、フフンと笑う。

『強力犯か、オレたちは智能犯だからナ』

そんな捜査一課、二課の刑事部の刑事たちをみる、公安部の刑事たちは、また腹の中で嘲う。

『フフン。ドロボーか。オレたちは思想犯だからナ』と。

ところが、さらに、同じように私服を着ているのだが、半張りを打ったドタ靴で、テコテコ歩き廻っている、これらの現場を持つ刑事たちに、ハナモ引ッかけない一群がいる。それは、警務系統のお巡りさんである。

警務というのは、会社でいえば総務だ。この連中は、ドロボー一人を捕えることもできなければ、捕えても調書一つ満足にとれず、送検の手続きさえも十分ではない。つまり、同じ警察官でありながら、捜査という、警察官にとって、一番大切な、基本的な実務をせずに、事務屋でいて、どんどん階級が上り、エラクなってゆく連中である。

新聞記者の世界も、もちろん、そうだ。事件記者というのは、フンダンに自動車が使えるだけ

で、実際には、軽蔑されているのだ。そうして、そのように一番大切な現場を踏んでいる記者よりも、警務畑といった、〝事件を知らない〟記者が早くエラクなる。何故かといえば、事件をやると、失敗して傷つく確率がふえるからである。危険率が多いのである。

記事訂正と記者

話がすっかりそれてしまったが、K氏は私の前で、インテリのポーズをやめて、本音を吐いたのであった。それには、私がインテリでないことを、先にK氏に見せてやったからである。相手がインテリでなければ、彼も何もブル必要がない。その方が気安いからだ。

そこで私はいった。「よろしい、貴方の御希望通りにお手伝いしましょう。そのためには、ニュースのキッカケというのがあります。その方が、記事を書きやすいから、あなたが、分離公判を受けたいという気持を、手記として、弁護士に寄せたという形式をとりましょう。今の気持を書いて下さい」

彼が書いてきた文章をみて、私は「バカヤロー奴」と舌打ちせざるを得なかった。彼の手記なるものは、彼の気持と全くウラハラな、例のむづかしい漢語の多い、公式的共産党的声明文であ

る。「…し得る権利を保有したい。」といった調子である。