女中が廊下から呼ぶ・刑事がきた」タグアーカイブ

最後の事件記者 p.194-195 兇器まで入っている感じだ

最後の事件記者 p.194-195 仙台という言葉に、キャッキャッと騒ぐ女給たちの嬌声の中で、小島がフト耳を傾けて、酔眼がキラリと光った。小島が勤めていた日発の話、グッと表情が変るのを見逃さなかった。
最後の事件記者 p.194-195 仙台という言葉に、キャッキャッと騒ぐ女給たちの嬌声の中で、小島がフト耳を傾けて、酔眼がキラリと光った。小島が勤めていた日発の話、グッと表情が変るのを見逃さなかった。

番頭作戦成功

女の子たちが、「菓子」というので、また台所へ飛んできて、菓子鉢を持ってゆくと、

『ドオ、番頭さん、甘いのは?』

『へエ、どうも恐れ入ります』

坐りこむキッカケをみつけたので、まず一同ヘビールをついでから、女給さんのとってくれる和菓子をキチンと両手で受ける。

『ダンナ様方は仙台の方で……。私は岩手県なものですから、東北の方はお懷しうございますナ』

『何いってンのよ。ダンナ様だなんて。こちらは社長さんのお坊ッちゃんよ』

仙台という言葉に、キャッキャッと騒ぐ女給たちの嬌声の中で、小島がフト耳を傾けて、酔眼がキラリと光った。

『仙台といえば、私の遠縁の者が、日発の支店に勤めておりまして、イヤ、どうせ守衛なんでございますが……』

小島が勤めていた日発の話、グッと表情が変るのを見逃さなかった。四方山の雑談をすること、約三十分。その中に、小島の犯行を暗示する痛い質問が、時々入る。

反応はもう充分。さっきまでのデレデレの酔態が、次第に白けてきて、男二人は顔色まで青くなってきた。犯行の記憶が呼び覚まされたのであろう。

ビールを取りに立ったついでに、待機の記者に合図。神田署から二人の刑事がかけつけてくる。台本の筋書は、臨検として刑事が部屋に入って、職質をやるという手筈。それまで、間をつないでおくのが私の役目だ。

小島が女給のビールを受けながら、床の間のボストンに眼をやる。

——危い!

あの中には、札束ばかりか、兇器まで入っているような感じだ。何とかして、遠ざけておかねばならない。

『ダンナ様、チャンポンなさったのではございませんか。お顔が青いようです。しばらくの間、およりになっては……』

押入れをあけて枕と毛布を出す。座ブトンを並べて、場所をつくる間に、ボストンを押入れの中に突っこんでしまった。

『番頭サン、チョット』

女中が廊下から呼ぶ、刑事がきた!

『アノ、誠に恐れ入りますが、別のお部屋で、お客様にチョット間違いがございましたので、警

察の方が……』

サツと聞いて、ガバとはね起きた小島は、床の間へ手をのばしたが、もう、その時には二人の刑事がズイと入ってきていた。

最後の事件記者 p.196-197 私の名演技〝番頭〟が酒の肴に

最後の事件記者 p.196-197 パラリとほどけた結び目から、キチッと帯封された十万円の札束が六つ。つづいて、バッグの底から、ズシリと出てきたのが、大型の十四年式拳銃。今度は記者や女中たちの息をのむ番だった。
最後の事件記者 p.196-197 パラリとほどけた結び目から、キチッと帯封された十万円の札束が六つ。つづいて、バッグの底から、ズシリと出てきたのが、大型の十四年式拳銃。今度は記者や女中たちの息をのむ番だった。

女中が廊下から呼ぶ、刑事がきた!

『アノ、誠に恐れ入りますが、別のお部屋で、お客様にチョット間違いがございましたので、警

察の方が……』

サツと聞いて、ガバとはね起きた小島は、床の間へ手をのばしたが、もう、その時には二人の刑事がズイと入ってきていた。

職務質問だ。バックの中味が取出される。白いハンケチ包みが出る。

「アア、カメラね』

これがお芝居とは気づかぬ女たちは、社長令息を信じきって、かえってハシャギながら叫んだ。

パラリとほどけた結び目から、キチッと帯封された十万円の札束が六つ。女たちもさすがにハッと息をのむ。男二人は、机にうつ伏して、肩で息をしている。もはや、立派に覚悟の態だった。

つづいて、バッグの底から、ズシリと出てきたのが、大型の十四年式拳銃。今度は記者や女中たちの息をのむ番だった。

その夜も、そして、その次の夜も、ことに「ハンニンタイホニ、ゴキョウリョクヲシャス」という、仙台北署長からのウナ電のきた次の夜などは、社の付近の呑み屋で、私の名演技〝番頭〟が酒の肴になっていた。私は、警察の捜査の〝協力者〟であった。

「東京租界」

新聞記者入るべからず

二十七年四月二十八日、日本は独立した。この年の二月の末から、社会部では、辻本次長が担当して、「生きかえる参謀本部」という続きものをはじめ、私もその取材記者として参加した。これは、講和を目前に迎えて、日本の再軍備問題を批判した企画であった。

この早春のある朝、私は辻政信元大佐を訪れた。仮寓へいってみると、入口には、「警察官と新聞記者、入るべからず」と、墨書した木札が出ている。これにはハタと困って、しばらくその門前で考えこんでしまった。

だが、そのまま引返すほどなら、記者はつとまらない。私は門をあけ、玄関に立った。日本風の玄関はあけ放たれて、キレイに掃除してある。「御免下さい」と案内を乞うと、すぐ次の間で 声がした。