新聞記者は、一、二の例外をのぞいて、全くのウソは書かないからである。もし、全くのウソを書いたとすれば、それは、ニュース・ソースがウソをついたか、全く善意の過失かの、どちらかである。
石島弁護士の友情
K氏の事件も、アカハタ紙と東大学生新聞とが、大きく「読売のウソ」を報じたに止まった。しかし、面白いことには、アカハタ紙には「(K氏の立場が)反共の一線はハッキリしている」などの点は全くのいつわりだ、と、K氏はいっている。とあるのだが、この部分がすべてに詳しい東大新聞にはなく、アカハタ紙がつけ加えた感じがすることである。アカハタ紙がつけ加えず、K氏がその記者にだけそういったものなら、K氏のオポチュニスト性はいよいよ露呈されたワケだ。
『読売新聞が誠意をみせなければ、告訴するということも考えねばならない』
石島弁護士は、会談が最後にきたことを告げて、冷たくこういった。
『どうぞ。…もう、部長、局長に面会をお求めになっても、また、お会いになっても、ムダですから、その点もお断りしておきます』私も、静かに答えた。
石島弁護士はK氏を伴って、編集局を出ていった。私は一たん席へもどって、部長とデスクに帰った旨を断ると、急いで表玄関へ行った。以心伝心、彼はK氏と別れて、また戻ってきた。二人は喫茶店に入った。
『全く奇遇だったなア』
『イヤ、大分御活躍じゃないか、反共記者ドノは!』
『ハハハハ。しかし、石島弁護士というのも、御活躍だぜ』
二人は、さっきの冷たい戦も忘れて笑い合った。気持の良い笑いだった。
『だけどナ。今日のめぐりあいは、まだ良い方だよ。いつかは、警視庁の留置場で、Tの奴にあったよ』
『ヘエー。そうかネ』
Tは役人だったので、五中時代の友人だった、業者と一緒に、呑み食いして、洋服生地をもらったのが、汚職に問われた男だ。
『しかし、思い出すな。あのころを』
『ウン、結構、悪童だったからなナ』
二人は時間のたつのも忘れて、すっかり話しこんでしまった。私が逮捕されるや、新聞記事をみた石島弁護士は、私の妻へ電話してきて、「お役に立てるなら、何時でも、どうぞおっしゃって下さい」と温かい言葉を贈ってくれたのだった。