これで私と彼女の第一回は終った。結論として彼女はQ氏も含めた外人のグループに関係しており、相当地位の人の秘書役らしいこと。そして、彼女の主人格の人のうちの一人は、Q氏と対立的立場にあり、あまり気の進まない彼女に、Q氏にとって不利な資料の収集を命じたが、彼女はその争いにまきこまれたくないらしいこと、などが判った。
ランデヴーは、翌日午後四時半、日比谷のラストヴォロフ氏もよく利用した、高級喫茶店と決った。
奇妙な逢曳だった。しかし、アヴェックの多い喫茶店での話だけに、前日よりは大分話がホグされてきた。私は時々、新聞記者の職業意識を丸出しにして、無遠慮な質問を浴せてみた。彼女は、悲しそうな表清で、私を押えていった。
『お願いだから、そんなことをお聞きにならないで……。申上げられれば、申上げますから』
『ハイ、ハイ。ごめんなさい』
私はふざけてみせて、笑った。
その日、私はQ氏の関係先が、警察当局のお手入れをうけた記事を二、三枚持っていって、まだこれしか見つからないといった。そして、次のランデヴーの約朿をした。
私はあせらなかった。ましてや、尾行をするなどという、拙策は考えなかった。もしそのよ
うな背信行為を気付かれたら、一切が終りだからだ。
三回目の逢曳で、私は提案した。
『ネ、良い友だちになろうぢゃありませんか? 友人として付合って下さいョ』
『エエ、いいですわ。ただし、私の立場について、質問はもちろん、記者的な一切の関心を持たないという、約束さえ守って下されば……』
『いいですよ。是非お願いします』
こうして何回かの逢曳がつづけられているうちに、私はついに彼女の身許を割りだした。ある日、彼女が自分の事務所に電話するとき、そのダイヤル数字を読み取ったのである。
私は飛び立つ思いで、この電話の所有者を調べてみた。港区芝栄町一、マソニック・ビル
元帝国海軍の将校クラブであったこの水交社は、戦後フリー・メーソンの本拠となって、マソニック・ビルと呼ばれていた。
——彼女はフリー・メーソンにいた!
これで一切が読めた。Q氏もまた、メーソンの三十二階級という高位にある。Q氏の悪事を調べるということは、極東支部の幹部間に内紛があるということだ。
Q氏は米軍の軍曹で、現地除隊をして日本に住みついてから、メーソンに入り異例の出世で 三十二階級まで上っていった人物だ。