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最後の事件記者 p.122-123 二人の秘密警察員と相対する

最後の事件記者 p.122-123 『サジース』(坐れ) 少佐はカン骨の張った大きな顔を、わずかに動かして、向い側の椅子を示した。――何か大変なことがはじまる!
最後の事件記者 p.122-123 『サジース』(坐れ) 少佐はカン骨の張った大きな顔を、わずかに動かして、向い側の椅子を示した。――何か大変なことがはじまる!

ソ連側からやかましく敬礼の励行を要望されてはいたが、その時の私は、そんなこととは関係なく、左手は真直ぐのびて、ズボンの縫目にふれていたし、勢よく引きつけられた靴のカカトが、カッと鳴ったほどの、厳格な敬礼になっていた。

冷たく光る銃口

正面中央に大きなデスクをすえて、キチンと軍服を着たペトロフ少佐が坐っていた。かたわらには、みたことのない、若いやせた少尉が一人。その前の机上には、少佐と同じ明るいブルーの軍帽がおいてある。天井の張った厳めしいこの正帽でも、ブルーの帽子はエヌカーだけがかぶれるものだ。

密閉された部屋の空気は、ピーンと緊張していて、わざわざ机上にキチンとおいてある帽子の、眼にしみるような鮮やかな色までが、生殺与奪の権を握られている一人の捕虜を威圧するには、十分すぎるほどの効果をあげていた。

『サジース』(坐れ)

少佐はカン骨の張った大きな顔を、わずかに動かして、向い側の椅子を示した。

――何か大変なことがはじまる!

私のカンは当っていた。ドアのところに立ったまま、自分自身に「落ちつけ、落ちつけ」といいきかすため、私はゆっくりと室内を見廻した。

八坪ほどの部屋である。正面にはスターリンの大きな肖像画が飾られ、少佐の背後には本箱。右隅には黒いテーブルがあって、沢山の新聞や本がつみ重ねられていた。ひろげられた一抱えの新聞の、「ワストーチノ・プラウダ」(プラウダ紙極東版)とかかれたロシア文字が、凄く印象的だった。

歩哨が敬礼して出ていった。窓には深々とカーテンが垂れている。

私が静かに席につくと、少佐は立上ってドアの方へ進んだ。扉をあけて、外に人のいないのを確かめてから、ふりむいた少佐は後手にドアをとじた。「カチリ」という、鋭い金属音を聞いて、私の身体はブルブルッと震えた。

――鍵をしめた!

外からは風の音さえ聞えない。シーンと静まり返ったこの部屋。外部から絶対にうかがうことのできないこの密室で、私は二人の秘密警察員と相対しているのである。