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黒幕・政商たち p.036-037 イヤイヤしたことだ。

黒幕・政商たち p.036-037 刑事訴追をされている二口氏が帰国して東棉の要職にいるということは、社内では責任が問われていないということで、すなわち、東棉自体の〝会社ぐるみ犯罪〟容疑であるということである。
黒幕・政商たち p.036-037 刑事訴追をされている二口氏が帰国して東棉の要職にいるということは、社内では責任が問われていないということで、すなわち、東棉自体の〝会社ぐるみ犯罪〟容疑であるということである。

もし有罪となれば、二口氏は最高懲役百五年、米国東棉は罰金二十一万ドル(七百五十六万

円)の判決を受ける可能性がある」

日本の総合商社中の大手であり、米国南部に於ては、輝やかしい信用と歴史とを持つ、東洋棉花が、司法省に詐欺罪で告発されたということは、記事は小さく、しかも朝日だけではあるが、意味するところは大きい。ここにあえて「東洋棉花」と書いたのは、朝日の記事中に「経営が全く別会社になっている」とあるが、米国東棉は、事実上東洋棉花そのもので、便宜上から現地法人となっているに過ぎない。

事実、ダイヤモンド社の会社職員録(39年11月版)によると事件の被疑者である米国東棉社二口正道機械部長は、帰国して東棉の機械第一部大阪支部長という要職にあり、東棉取締役の横山健治氏が、米国東棉社首席となって、中上公平次席以下、五名の東棉社員が名を列ねている。事件は「人」が起すものであって、「経営」が起すものではない。しかも、責任者として刑事訴追をされている二口氏が帰国して東棉の要職にいるということは、社内では責任が問われていないということで、すなわち、東棉自体の〝会社ぐるみ犯罪〟容疑であるということである。

会ってみると、二口氏は日本語より英語が上手だといわれるように、実直で小心そうな技術者であり、彼自身が主張するように、シッビングの書類にサインした。その署名責任を追及されているという感じだ。

たった36万ドル?

その口下手な言葉を引取って前秘書室長の井上取締役が説明する。

「東棉の化学、繊維部門で、かねて取引のあった韓国商社の銀星産業というのが、工作機械を買いたいというので、東棉機械部に紹介してくれという。機械部で話を聞いてみると、米対外援助資金(AID)でというので断わったところ、米国東棉へ紹介してくれという。イヤイヤ紹介したところ、銀星の林社長が自身アメリカに渡り、自分で中古品を買いつけてきた。AIDはバイ・アメリカンだから米国で買わねばならない。しかし、資金の割当て枠があるので林社長は欲張って品数をふやすため、中古品を買った。

AIDには、昨年末まで新品に限るという規定があった。しかし、中古ではあるがモデルが古いというだけの中古品で、un-used(未使用)だから、new(新品)と解釈してシッビングの書類にそう記載した。米国東棉としては、林社長の要請で、断り切れずにシッピングだけを受持っただけ、しかも、イヤイヤしたことだ。

米国東棉の機械部の月商は、一千万ドル近いから、この林社長の三十六万余ドルの商売など小さく、ムリして取る客ではない。しかし、米国駐在社員一人月間百万円近い経費だから、コミッションはもらった。