シベリア抑留実記
まえおき
船はいつか停まっていた。「内地だ」「日本だ」と呼び叫ぶ声に私も甲板に駆け上っていった。美しい国日本! 樹々の茂った山、青々とした野菜畑、赤い実に飾られた柿の木、藁ぶきの田舎家の白壁。上陸以来の行きとどいた扱いと、沿線いたるところの温かいもてなしとに、ありがたい国日本! とまたまた目頭を熱くしたのだった。それにつけてもなお六十万という残留同胞達は、酷寒期を迎えてどうしているだ
シベリア抑留実記
まえおき
船はいつか停まっていた。「内地だ」「日本だ」と呼び叫ぶ声に私も甲板に駆け上っていった。美しい国日本! 樹々の茂った山、青々とした野菜畑、赤い実に飾られた柿の木、藁ぶきの田舎家の白壁。上陸以来の行きとどいた扱いと、沿線いたるところの温かいもてなしとに、ありがたい国日本! とまたまた目頭を熱くしたのだった。それにつけてもなお六十万という残留同胞達は、酷寒期を迎えてどうしているだ