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黒幕・政商たち p.058-059 戦前、井上日召の付け人

黒幕・政商たち p.058-059 「田中角栄幹事長は、キミイ、比島葉は難しいぜ、キミイ、といっただけだった。ワシのこれからの仕事は、米葉利権と政治家の結びつきの究明だ」
黒幕・政商たち p.058-059 「田中角栄幹事長は、キミイ、比島葉は難しいぜ、キミイ、といっただけだった。ワシのこれからの仕事は、米葉利権と政治家の結びつきの究明だ」

〝怪人物〟コバケン

利権と政治家の結びつき

さて、私は一方で、〝コバケン〟なる人物をたずね歩いていた。右翼で小林健といえば、全愛会議の青年組織である、青年思想研究会議長の小林健氏を指すものと思われたが、ジンタイ(人体、人相、風態の意)が違う。この小林氏を追尾してみた時、「甲府のコバケン」といわれる人物がいることを聞き、私は直ちに市外番号調べのダイヤルを回してみた。

交換嬢の告げる電話番号と住所を書き取った私は、直ちに甲府市の地図をひろげる。意外! この小林健氏は、甲府市外、しかも笛吹川を渡って、なお数キロもある境川村に居住しておりながら、甲府の市内番号の電話を引いているのであった。これだけの事実で、私のカンはピシャリと決った。新宿駅にかけつけて、第二アルプス号に乗ったのである。ついに〝怪人物〟の割り出しに成功した。

甲府市外境川村、駅から小型のタクシーで八百円余りの草深い田舎に、「洗心荘」という、数寄屋造りの別荘を構え、小林健氏は、京風の庭の手入れをしていた。私の調査によれば、戦

前、憲兵隊から井上日召氏のもとに、付け人として派遣され監視に当っていたといわれる、治安当局の分類によれば、右翼に位置づけられている人物。

氏は、米葉と結びついている利権政治家の名前をあげ、その腐敗をつき、〝義によって〟マカパカル大統領の応援に乗り出した経緯から説き起した。

「まず第一に、外貨が節約できるではないか。第二に、条約の批准が期待できるではないか。これはすべて国益だ。比島葉の栽培、採り入れ、味付け、すべて公社が指導すればよいことだ。そのための研究所も持っているではないか。このワシの正論の前に、公社はグウの音も出ないのだが、既得権益を守る勢力の方がまだ強い。これを打破せねばならないのだ」

確かに、氏の主張は正論であった。だが、氏の応援が期を失っていたのか、或いは力及ばなかったのか、デュモン上院議員、〝密使〟ミス・コーラーは、何の収獲もなく、九月に入るとともに、ホテルを引払って帰国した。

「田中角栄幹事長は、キミイ、比島葉は難しいぜ、キミイ、といっただけだった。ワシのこれからの仕事は、米葉利権と政治家の結びつきの究明だ」

〝怪人物〟コバケンは、こういって新聞に眼を落した。マカパカル敗る! のニュースであった。そして、その頃、通産省は、四十年下期のタバコ輸入割当を決定した。葉たばこ二千八百トン、紙巻二万二千八百本、葉巻百五十万本、パイプ三十一トン。葉たばこ対象国としては

依然として、アメリカ、ローデシア、インド、タイ、そして新たに、韓国が候補に上ってきた。フィリピンはやはり葉巻用だけで、黄色種(ヴァージニア葉)はカクエイ・タナカのいう通り、〝むづかしい〟らしい。

黒幕・政商たち p.060-061 貢献度による特権商社の会

黒幕・政商たち p.060-061 公社に百%依存して、そのOBを重役に引取っている専業者たちが「数字は公社から」と拒み、公社は「予算的にもルーズ」であれば、もちろん米葉の実態を明らかにはしないであろう。
黒幕・政商たち p.060-061 公社に百%依存して、そのOBを重役に引取っている専業者たちが「数字は公社から」と拒み、公社は「予算的にもルーズ」であれば、もちろん米葉の実態を明らかにはしないであろう。

〝怪人物〟コバケンは、こういって新聞に眼を落した。マカパカル敗る! のニュースであった。そして、その頃、通産省は、四十年下期のタバコ輸入割当を決定した。葉たばこ二千八百トン、紙巻二万二千八百本、葉巻百五十万本、パイプ三十一トン。葉たばこ対象国としては

依然として、アメリカ、ローデシア、インド、タイ、そして新たに、韓国が候補に上ってきた。フィリピンはやはり葉巻用だけで、黄色種(ヴァージニア葉)はカクエイ・タナカのいう通り、〝むづかしい〟らしい。

週刊新潮四十年九月四日号「阪田総裁、人望の裏側」という記事は、「専売公社は他の機関と違って、予算的にもルーズな面があるようなんですよ。従来、きびしい経理監督の面がなかったんじゃないですか。公労協傘下の組合には、ヤミ賃金というのがありましてね。これはそれぞれの組合が、理事者側とウラ協定を結んでいるわけです。これが多いのが、専売と電通といわれますがねえ。……大蔵省がうるさくなると、ヤミ賃金なんかの面でしばられる結果を、全専売はおそれているんですよ」と、公社がヤミ賃金を出している事実を社会党系人物の談話として述べている。

一体、このヤミ賃金の財源は何であろうか。

友成外国課長補佐は、米葉の買付け状況を、数字を抜きにして、親切にシロウトにも判り易く説明する。

「ヴァージニア葉は、ピース、富士、ハイライトなどに、香喫味として加えるのであって、主原料は国産葉です。だからピース、ハイライトの伸び率に伴って、米葉の輸入もふえるのが当然で、米葉の輸入増大に特別の意味はありませんよ」

東南ア外交の裏で——

たとえ、ピース、ハイライトの伸び率のグラフと、米葉のそれとを比較してもナゾ解きのヒントは得られない。たばこの輸入は、ドルと数量のワクをはめられるが、現実にこの二つのワク内での買付けをドンピシャにはできないのである。葉には茎の上部から、天、中、本、土と四種類あり、乾燥にも蒸気と日干とあり、土壌や天気で品質、味ともに変り、しかも発酵のため二年間は貯蔵する。

これを組み合せ、混ぜ合せて、銘柄の味、香気を作り出すのだから、公表されている数字をすべて集めてみても、〝大統領の密使〟たちが出した条件のように簡単明瞭な金の動きはつかめない。

そして、公社に百%依存して、そのOBを重役に引取っている専業者たちが「数字は公社から」と、拒むのであれば、前記週刊新潮が指摘しているように「予算的にもルーズ」であれば、もちろん米葉の実態を明らかにはしないであろう。

秋山、協同、米星、国際、吉川、三倉、東亜の七社が「七葉会」といわれるが、このうち東亜産業は消息通によれば公社のきびにふれて、除名され、現在は米葉を取扱っていない。また、民営たばこ以来の貢献度による特権商社の会といわれるにしては、三倉物産の創立は昭和三十 一年であり、元公社副総裁、現米葉協会長石田吉男氏(三洋貿易東京支店勤務)が米国勤務中の女性秘書ミス・マートの実兄が、三倉物産社長だと業界では噂されている。

黒幕・政商たち p.062-063 米葉輸入のウマ味

黒幕・政商たち p.062-063 どうして、専売公社は、業者の口を封じ、米葉輸入に関する内容数字を公表しないのか。七葉会の「東亜」が米葉輸入からオロされたのは、何故か。
黒幕・政商たち p.062-063 どうして、専売公社は、業者の口を封じ、米葉輸入に関する内容数字を公表しないのか。七葉会の「東亜」が米葉輸入からオロされたのは、何故か。

秋山、協同、米星、国際、吉川、三倉、東亜の七社が「七葉会」といわれるが、このうち東亜産業は消息通によれば公社のきびにふれて、除名され、現在は米葉を取扱っていない。また、民営たばこ以来の貢献度による特権商社の会といわれるにしては、三倉物産の創立は昭和三十

一年であり、元公社副総裁、現米葉協会長石田吉男氏(三洋貿易東京支店勤務)が米国勤務中の女性秘書ミス・マートの実兄が、三倉物産社長だと業界では噂されている。同社の登記とう本によると、ミスター・オット・F・マートが取締役におり、他はM姓の男女と三人しかない会社であった。この七葉会六社に、東洋、宇田、日辰、協栄の四社が加わったのが、〝専業十社〟であり、長く独占体制であったらしいが、米葉輸入のウマ味が知れてきてから、三井物産、三菱商事、三洋貿易、岩井産業、大倉商事の大手五社が加入した。

阪田前総裁が、結婚式の仲人を池田総理に頼みに行ったところ、「ワシは功成り名遂げた人間だ。キミのこれからの為には、田中蔵相に頼みなさい」といわれたという。一方、田中蔵相は組閣にさいし、後任に池田派の大平外相を推したという。自分のリモコンが利くからだという説である。だが、福田蔵相が実現した。

昭和四十年を回顧してみると、春の吹原事件は、池田派の大蔵官僚出身議員たちをふるえ上らせた。つづいて夏の国有地払下げ問題が、同じように大蔵OBへの圧力。そして、秋には、ついに大蔵官僚の牙城「専売公社総裁」が、財界人に明け渡された。しかも、この全期間を通じてのキャンペインが、〝専売一家〟をゆさぶる小林章派選挙違反事件である。

この一連の動きこそ、私は、偶然の一致とは見ずに、〝佐藤長期不安定政権〟が、着々と打ってきた、政財官界への布石であり、与論形成のためのキャンペインであるとみる。事実、エ

リートの中のエリートをもって任ずる大蔵官僚は、今まで、あまりにも傍若無人であり、あまりにも権力を持ちすぎていた。それは〝利権〟を握っていたからである。

米葉輸入量のグラフに、年度ごとに時の実力者、担当大臣名を記入し、選挙、政変などの主な政治事件を並記すれば、このグラフは、さらに雄弁に米葉輸入のウラ側をも示してくれるであろう。だが、どうして、専売公社は、業者の口を封じ、かつ、米葉輸入に関する内容数字を公表しないのであろうか。七葉会の専業社中「東亜」が指定を取消されて、米葉輸入からオロされたのは、何故だろうか。コバケンこと小林健氏は一通の手紙、アメリカのタバコニストの一人(特に名を秘す)からの私信を示した。

「(前略)下級品(三級)は高値の上に質も良くありません。しかし、当地の業者は、日本専売公社のために、上、中、下級そのものではなく、それらに似通ったものを、買付けるでしょう。割当を充足するためにのみ。

この点に、私はフィリピン煙草をもって、補充する余地を見出せるわけです。何故なら、彼らの煙草はあまりに高値にすぎ、品質が悪すぎるからです。ここに新聞の切抜きを同封しますが、日本側では当地の煙草生産の余剰品を買付けると書かれています。(後略)」

ノース・カロライナ発の英文の手紙が、「米葉でなきやダメ」と主張する公社外国部の主張をくつがえしている。