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黒幕・政商たち p.062-063 米葉輸入のウマ味

黒幕・政商たち p.062-063 どうして、専売公社は、業者の口を封じ、米葉輸入に関する内容数字を公表しないのか。七葉会の「東亜」が米葉輸入からオロされたのは、何故か。
黒幕・政商たち p.062-063 どうして、専売公社は、業者の口を封じ、米葉輸入に関する内容数字を公表しないのか。七葉会の「東亜」が米葉輸入からオロされたのは、何故か。

秋山、協同、米星、国際、吉川、三倉、東亜の七社が「七葉会」といわれるが、このうち東亜産業は消息通によれば公社のきびにふれて、除名され、現在は米葉を取扱っていない。また、民営たばこ以来の貢献度による特権商社の会といわれるにしては、三倉物産の創立は昭和三十

一年であり、元公社副総裁、現米葉協会長石田吉男氏(三洋貿易東京支店勤務)が米国勤務中の女性秘書ミス・マートの実兄が、三倉物産社長だと業界では噂されている。同社の登記とう本によると、ミスター・オット・F・マートが取締役におり、他はM姓の男女と三人しかない会社であった。この七葉会六社に、東洋、宇田、日辰、協栄の四社が加わったのが、〝専業十社〟であり、長く独占体制であったらしいが、米葉輸入のウマ味が知れてきてから、三井物産、三菱商事、三洋貿易、岩井産業、大倉商事の大手五社が加入した。

阪田前総裁が、結婚式の仲人を池田総理に頼みに行ったところ、「ワシは功成り名遂げた人間だ。キミのこれからの為には、田中蔵相に頼みなさい」といわれたという。一方、田中蔵相は組閣にさいし、後任に池田派の大平外相を推したという。自分のリモコンが利くからだという説である。だが、福田蔵相が実現した。

昭和四十年を回顧してみると、春の吹原事件は、池田派の大蔵官僚出身議員たちをふるえ上らせた。つづいて夏の国有地払下げ問題が、同じように大蔵OBへの圧力。そして、秋には、ついに大蔵官僚の牙城「専売公社総裁」が、財界人に明け渡された。しかも、この全期間を通じてのキャンペインが、〝専売一家〟をゆさぶる小林章派選挙違反事件である。

この一連の動きこそ、私は、偶然の一致とは見ずに、〝佐藤長期不安定政権〟が、着々と打ってきた、政財官界への布石であり、与論形成のためのキャンペインであるとみる。事実、エ

リートの中のエリートをもって任ずる大蔵官僚は、今まで、あまりにも傍若無人であり、あまりにも権力を持ちすぎていた。それは〝利権〟を握っていたからである。

米葉輸入量のグラフに、年度ごとに時の実力者、担当大臣名を記入し、選挙、政変などの主な政治事件を並記すれば、このグラフは、さらに雄弁に米葉輸入のウラ側をも示してくれるであろう。だが、どうして、専売公社は、業者の口を封じ、かつ、米葉輸入に関する内容数字を公表しないのであろうか。七葉会の専業社中「東亜」が指定を取消されて、米葉輸入からオロされたのは、何故だろうか。コバケンこと小林健氏は一通の手紙、アメリカのタバコニストの一人(特に名を秘す)からの私信を示した。

「(前略)下級品(三級)は高値の上に質も良くありません。しかし、当地の業者は、日本専売公社のために、上、中、下級そのものではなく、それらに似通ったものを、買付けるでしょう。割当を充足するためにのみ。

この点に、私はフィリピン煙草をもって、補充する余地を見出せるわけです。何故なら、彼らの煙草はあまりに高値にすぎ、品質が悪すぎるからです。ここに新聞の切抜きを同封しますが、日本側では当地の煙草生産の余剰品を買付けると書かれています。(後略)」

ノース・カロライナ発の英文の手紙が、「米葉でなきやダメ」と主張する公社外国部の主張をくつがえしている。

迎えにきたジープ p.134-135 女社長の高橋女史は吸血鬼

迎えにきたジープ p.134-135 The female president of Tokyo Pharmaceutical is a grabby person who cooperates with the UN forces. The raw blood collected from the vagrant is dried by heat treatment, so that all the bacteria are killed.
迎えにきたジープ p.134-135 The female president of Tokyo Pharmaceutical is a grabby person who cooperates with the UN forces. The raw blood collected from the vagrant is dried by heat treatment, so that all the bacteria are killed.

——そうそう四人組の吸血鬼を忘れていた。

彼は浅草行のメトロに乗って、谷中警察署へ向った。

折角意気込んで谷中署を訪れたのに、勝村はガッカリしてしまった。あまり事件も起きない小さな署だっただけに、古ぼけたせまい部屋で、搜査主任は聞きもしない事まで喋ってくれたが、結論は生血ではなく乾燥血漿なので、何の影響もないということだった。

『何しろ朝鮮動乱が始まってからというものは、国連軍のいわゆる特需がふえて、東京製薬という会社は、いま大変なものだそうですよ。前は重病人のための、国内の僅かな需要しかなかったのですからなあ』

主任は思いついたように机上の新聞をとって、彼に示した。「重病人のために、血液購入!」という広告だった。

『ホラ、これですがね。四百円のほかに栄養食とかをくれるそうですがね。本社も上野にあり、給血者はやはり浮浪者が多いので、一部にはそねみで、国連軍へ納める値段は途方もないものだから、女社長の高橋女史は吸血鬼だなんて騒ぐ奴もいるんですよ。共産党の細胞なんかが〝国連軍協力の吸血鬼高橋社長を葬れ〟って、ビラを地下道にはったりしましてね』

『高橋ッて婆さんは仲々やり手でね。御殿みたいな家へ、よく高級将校夫人を招待しては娘の日本舞踊を見せたり、外交家ですよ』

話好きらしい主任は一人で続けた。

『あの乾燥血漿を国連軍に一手で納めるようになったのも、そのへんの呼吸らしいですよ』

『亭主はいるんですか?』

『ええ、養子ですからまるっきり影は薄いですよ。取締役か何かになっている付属の研究所長という博士と噂があったりして、丸っきり借りてきた猫……』

主任は相手が立上ったのをみて、急いで事務的に付加えた。

『要するに、工場は科学的な流れ操作で、採血した生血を、熱処理によって乾燥させるので、一切のバイ菌は死滅する訳でして、工場側には薬事法違反という問題は考えられないのです』

——俺のカンも外れるようになってきたのかな? とんだ無駄足をしたけれど、まあいいや。

本筋の本多技師を洗ってみるんだ。

彼はそう呟きながらまた地下鉄に乗った。国連軍協力の商売人で、共産党に叩かれている女社長。バイ菌は高熱処理のためみな死んでしまう。成程筋の通った話だった。

勝村がチェリーとのレポに都心へ帰ろうとして乗った地下鉄の別の車輛には、上野から乗った大谷元少将もいたのだった。勝村が疑問を持った以上に、新聞の記事にビックリした彼が、

あたふたと東京製薬の本社に馳けつけて、どうやら安心しての帰り途だったのである。