日別アーカイブ: 2020年4月12日

黒幕・政商たち p.070-071 蒸発してしまう会社が必要

黒幕・政商たち p.070-071 そして、九億ほどの金が、地主以外の連中——公団に売り付けた幽霊会社や、公団をめぐる政治家をはじめとする〝黒幕〟たちのフトコロを肥やしているのである。
黒幕・政商たち p.070-071 そして、九億ほどの金が、地主以外の連中——公団に売り付けた幽霊会社や、公団をめぐる政治家をはじめとする〝黒幕〟たちのフトコロを肥やしているのである。

「公団と地主の間には、ある会社がクッションになって入っています。ホテルニュー・ジャパンの中にあるその会社の社長というのは、ある金融機関の支店長だった男です。そして、彼

が、その土地を、半年でも一年でも持っていて、公団に売ったというのなら、まだよろしいでしょう。しかし彼が所有していたのは、僅かに一日間だけです。土地の広さですか? 坪六千円の土地で、総額十数億円にのぼる面積です。そして、彼はその土地のある農協から十億もの融資を受けているのです」

公団から地主たちに支払われた金は、彼の会社を通して、農協に預金され、そして彼は、その金を農協から融資してもらっている。

「だが、ニュー・ジャパン内のその会社は、融資をうけるやいなや、煙の如く消えてしまったのです。ホテルの交換台は、その部屋の主が、〝出発〟してしまったと告げるのです。……一体、十億という金を借り得る会社が、そんなに簡単に消減してしまうものでしょうか」

固有名詞が、公団とホテル名以外は、すべて伏せられているので、読者はこの話を、にわかには信じ難いと思うかも知れない。

しかし、公団の宅地買収に関する限りは、このようなミステリーは、日常茶飯事である。坪六千円ならば、三十万坪で十八億円。しかし、倍の値段で買上げているので、十八億では約十五万坪しか買えない。そして、九億ほどの金が、地主以外の連中——公団に売り付けた幽霊会社や、公団をめぐる政治家をはじめとする〝黒幕〟たちのフトコロを肥やしているのである。

また、農協に対しては導入預金だ。地主に渡った約九億円の金の大部分が、農協に入り、そ

の金はまた、幽霊会社へ還元されている。一体、誰がこのようなミステリーの脚本を書き、誰が演出しているのだろうか。そして、また、その金の行方は?

「私が研究した限りの税法では、このような取引は、考えられないのです。そのため、すべての〝悪〟をひっかぶって蒸発してしまう会社が必要なんです」

彼の話は、まだえんえんと続くのであるが、信じきれない読者のために、まず一つの「事実」を示さねばならない。

光明池事件のウラのウラ

ここに一通の公文書がある。昭和三十八年七月二十日付で、日本住宅公団の三人の監事の連名による、日本住宅公団総裁挾間茂にあてた、監査報告書だ。その全文を紹介しよう。

大阪支所の監事監査結果について

先般、大阪支所の監査を行いましたその結果は、別紙監査書の通りでありますので、御通知いたします。以上。

日本住宅公団監事 武井良介
         川合寿人
〔宅地部関係〕  大庭金平

黒幕・政商たち p.072-073 某監事の〝義憤〟が火を噴いた

黒幕・政商たち p.072-073 光明池地区に関して、「一年経過してこれが適地となることは、まず、常識では考えられない」「今後はかかる公団独自で解決できぬ」土地は選ぶなと、鋭く問題点を指摘している。
黒幕・政商たち p.072-073 光明池地区に関して、「一年経過してこれが適地となることは、まず、常識では考えられない」「今後はかかる公団独自で解決できぬ」土地は選ぶなと、鋭く問題点を指摘している。

1 光明池地区について

当地区の選定については、種々問題があろうが、すでに地区決定をし、用地買収費を支払済である。現在、公団としては、事業を遂行する義務が課せられたのである。水道、連絡道路、排水関係、特に光明池に対する防災工事等問題は山積している。原価試算をみると、本地区の事業費が他地区と比して、高くもなっているが、これの予算裏付け、最後に出来上り成果が需要にマッチするかというような諸点は、もちろん、成算あっての上地区決定とも思料されるが、大阪支所だけでは処理できない幾多の問題点が、内蔵されているので、本地区に関しては、支所共、関係諸機関と連絡調整の上、禍を残さぬよう事業遂行のタイミングに、充分留意されることを希む。

おって本地区は前年度において不適地としたものである。一年経過してこれが適地となることは、まず常識では考えられぬことでもあり、それだけ問題点がある。今後は、かかる公団独自では解決できぬような問題点を有する土地は、他に候補地がなければ別であるが、選ばぬような指針を立てられたい。

本地区選定の推移と、三十八年度分特分審査の問題は、二律背反の典型であり公団の性格を如実に表したものである。

2 八幡地区の地区決定等について

当地区については、三十七年十二月十四日付造成面積五十六万坪、取得予定価格、坪当り三千八百円として地区決定しているが、同地区については当初候補予定地としてあがってから、すでに数年を経過し、その間、約四倍(当初坪千円位、取得予定四千円)の土地値上りをしている。排水路の問題で今迄決定がのびていたとはいえ、当地区をやるという決断が早ければ、もっと土地が安く取得でき、その分を排水工事費に、余計予算をかけても、現在実行に踏みきるよりは、経済的ではなかろうか。光明池の地区決定、買収完了は、特殊事情により、速かったかも知れぬが、用地の取得に限らず仕事はすべて、もっと迅速にかつ慎重に処理するようされたい。(後略)

——この監査報告は、大阪支所の仕事ぶり全般にわたって、細かに、眼を配らせているが、宅地関係を抜粋すると、以上の通りである。

光明池地区に関して、「一年経過してこれが適地となることは、まず、常識では考えられない」「今後はかかる公団独自で解決できぬ」土地は選ぶなと、その背景となっている〝政治的特殊事情〟を十分に承知した上で、鋭く問題点を指摘している。

八幡地区についても、時間を浪費したための地価の四倍値上りを取りあげ、警告しているが「光明池の地区決定、買収完了は、特殊事情により速かったかもしれぬが」という数文字は、事情を知るものにとっては、某監事の〝義憤〟が火を噴いた、痛烈な皮肉と読みとれよう。

黒幕・政商たち p.074-075 何十億の金が右から左へと動く

黒幕・政商たち p.074-075 日本住宅公団大阪支所のやった、光明池問題なるもの、この〝元兇〟ともいうべき立場の人物は、今は故人となった河野一郎だというのが、関係者の通説である。
黒幕・政商たち p.074-075 日本住宅公団大阪支所のやった、光明池問題なるもの、この〝元兇〟ともいうべき立場の人物は、今は故人となった河野一郎だというのが、関係者の通説である。

左翼の国会議員も登場

ここで、読者の理解を助けるため、日本住宅公団大阪支所のやった、光明池問題なるものを解説しなければならない。この〝元兇〟ともいうべき立場の人物は、今は故人となった河野一郎だというのが、関係者の通説である。そして、筆者がこの事件を、改めて取上げる所以も、河野一郎なる公人の、政治家としての功罪を、評価すべき資料たらしめたいと、願うからでもある。

光明池問題が表面化したのは、三十九年四月二十一日の衆院決算委で、勝沢芳雄委員(社、静岡一区)が、「公団の宅地買収に不明朗な点がある」と、質したのにはじまる。その質問によると、「公団が三十八年五月十七日に、同地区を坪当り四千百円で買ったが、この土地は三十六年ごろには、坪当り千円にすぎなかった。また、公団は三十七年に団地化計画を立てて、大阪支所に調査命令を出したが、三十八年四月上旬、同支所は条件が悪いとして、計画反対の報告を出した。しかし、四月末になって、再調査命令が出され、同支所は、五月七日に土地等評価審議会を開いて、土地買収の申請をすることを決め、その後十日間のうちに、契約が成立して、買収費の十四億七千万円のうち、九〇%が一会社に支払われた」という。

そしてさらに、前述の「監査報告書」が訂正されて、不明朗な点に注意喚起した部分が、削

除されている、とまで指摘して、〝黒い霧〟ムードを糾騨した。

これに対し、挾間総裁は「四千百円は適正だ」と、型通りの〝国会答弁〟をして逃げ、大庭監事は「大阪支所の報告の内容に、事実誤認があったので訂正」とのべた。

だが、監査報告書は訂正版には、報告の・印部分「おって……公団の性格を如実に表わしたものである」の十三行が削除されているし、大庭監事の署名印は双方にあるのである。

勝沢委員の質問は、こうして、いうならばカルクイナされてしまったのであるが、問題は深く静かに潜行していたのであった。そして、被害者に選ばれたのが日本三棉の雄といわれた、東洋棉花不動産部。主役は、東棉嘱託の肩書をもつ、東洋殖産社長岡林和生(三九)と、興亜建設社長大橋富重(四二)の両名。最後には顔見世ながら、右翼の巨頭(?)といわれる児玉誉士夫氏から、日共を追われた「日本のこえ」志賀義雄氏まで登場するといった、豪華キャストである。何十億の金が、右から左へと動くのも、無理からぬことでもあろう。そして、事件は、勝沢委員の質問から、丸一年を経た四十年春すぎから、東京、大阪で軌を一にして起ってきた。

まず、大阪篇から述べよう。

大阪府警捜査四課に、四十年八月十三日、大阪で二人の雑誌発行人が捕まったのである。「パーチャス・ガイド・オブジャパン」という、英文の貿易案内誌といっても、ベヤリングを

主とした機械の業界誌であるが、この二人の同社重役は、光明池地区の宅地買収にからんで、東洋殖産岡林社長から一千万円、東棉不動産部豊田保部長から二千七百万円、合計三千七百万円をおどし取った、という容疑であった。