日別アーカイブ: 2020年5月3日

黒幕・政商たち p.090-091 この会社に注目したグループ

黒幕・政商たち p.090-091 私は、これを名付けて、「潜入屋」と呼ぶ。新らしい知能暴力団であり、産業スパイと総会屋との職能を取り入れた近代的会社ゴロだ。
黒幕・政商たち p.090-091 私は、これを名付けて、「潜入屋」と呼ぶ。新らしい知能暴力団であり、産業スパイと総会屋との職能を取り入れた近代的会社ゴロだ。

「当機構会社は、全国地域共同仕入組合小売商の合同参加を得、全流通機構のメカニズムに対して価格問題がもつ基本的な重要性即ち流通機構の整備をするという問題の解決をめぐって小売商団体と企業各社の協賛を得生活必需品メーカーのつくりだす大量商品を近代的機構によってギリギリの低価格と最高度の回転で大量販売する能力を最大限に発揮することを目的。

またこの目的は協賛会社の販売機構を支える一助ともなりメーカーから最終小売段階に至る流通機構経路の新しい担い手ともなり、全国小売商の共同仕入組合傘下に対する供給ルートとして新しい座標を確定すべく活動を進めるものであります。

当機構会社の新しい市場性のご検討を戴き、貴社製品の供給ルート開発をお願いする次第です」(原文のまま)

この、意味も正体も不明の〝怪文書〟のごあいさつを読んで、品物を売った企業があったら、その売った方が〝悪い〟といわれてもやむを得まい。そして、この〝怪文書〟に、眼光紙背に徹したのかどうか、この会社に注目した、あるグループがあったようだ。私は、これを名付けて、「潜入屋」と呼ぶ。

新らしい知能暴力団であり、産業スパイと総会屋との職能を取り入れた近代的会社ゴロだ。

ということは、この会社の元社員であった、Yという男との、奇妙なデートから、おぼろ気ながら、明らかになってきたのである。

河野一郎をめぐる閨閥
元日本毛織社長
川西清司 喜美子 呉羽化学取締役 伊藤広二
元三井合名常務
福井菊三郎 福井素史 絹
千代
東洋パルプ会長
伊藤忠兵衛 早川電機常務 松村満雄 美代
呉羽紡社長 伊藤恭一 周子
代議士 河野洋平 武子
元代議士 田川平三郎 照子 元国務相 河野一郎
元神奈川県会議長 河野治平 参議院議員 河野謙三 明子
元農相 重政誠之 小泉忠之

黒幕・政商たち p.091 河野一郎をめぐる閨閥
黒幕・政商たち p.091 河野一郎をめぐる閨閥

黒幕・政商たち p.092-093 親分は、何ていう人だい?

黒幕・政商たち p.092-093 「第一、もうじき選挙でしょう? 福田赴夫を蹴落すため、田中角栄側から高く買いにきているンですよ」Yの第一声であった。
黒幕・政商たち p.092-093 「第一、もうじき選挙でしょう? 福田赴夫を蹴落すため、田中角栄側から高く買いにきているンですよ」Yの第一声であった。

「潜入屋」という新商売

新聞記者ともツー・カー

「こんな喫茶店なんかで、私からネタを取ろうなんて、ダメですよ。私だってモトをかけているんだから……。第一、もうじき選挙でしょう? 福田赴夫を蹴落すため、田中角栄側から高く買いにきているンですよ」

Yの第一声であった。情報源との接触には、場馴れたハズの私も、流石に先手を取られた感じであった。彼の話によると、流通機構会社のネタで、もう小一年ほどは、遊んで喰っているという。

「何しろ、福田ピン(一)さんの選挙区だけでも、数カ月も滯在して調べたンだから、モトもテマもかかっているンだ。しばらくは遊ばせてもらわなけりゃ……」

だが、彼のレインコートのエリは真ッ黒に汚れて、それほどラクなくらしとは思えなかった。年のころは、三十四位。

「キミに命令している親分は、何ていう人だい?」

「エッ!」

不意打ちの質問に、彼はガク然として十分な反応を見せた。

「そんなこと、いえませんよ」

「じゃ、判るまできかないよ」

ようやく、イニシアチブを取りもどした私は、第一回の会見を打ち切った。数週後の第二回目。彼は少年院友だちのCという男に、私の名前を聞いてきたといって、(私の名は、安藤組事件から彼らアウト・ローの世界では、いっぱし通用するらしい)雑談の間に、ポロポロと内容をもらしはじめた。以下は、彼の話を総合的にまとめてみたものであるが、もちろん、裏付け取材はまだである。

流通機構という会社がスタートしたとき、彼は組織から命ぜられて、その社員としてモグリこまされた。いわゆる投入牒者である。そして、会社の実態を目の当りにみてきたのである。もちろん、報告をして、その分の報酬が彼の手に入った。会社の末期には、事務所荒らしを装って、ロッカーを破り、重要な書類を盗んだり、コピーしたりした。

重要なものでは、会社設立の時の、政財界人たちの、賛同の署名簿があるし、麻生議員は軽くイナされてしまったが、福田蔵相は『承諾した事実がない』というのにもかかわらず、同氏 の会長就任承諾書まである。署名捺印がしてある。

黒幕・政商たち p.094-095 福田蔵相の会長就任承諾書

黒幕・政商たち p.094-095 もう一人の代表取締役、金沢政男という人物は、スター商会という、手形のサルべージ屋(パクられた手形をサルべージしてくる商売)の社長である。
黒幕・政商たち p.094-095 もう一人の代表取締役、金沢政男という人物は、スター商会という、手形のサルべージ屋(パクられた手形をサルべージしてくる商売)の社長である。

重要なものでは、会社設立の時の、政財界人たちの、賛同の署名簿があるし、麻生議員は軽くイナされてしまったが、福田蔵相は『承諾した事実がない』というのにもかかわらず、同氏

の会長就任承諾書まである。署名捺印がしてある。

今は、不渡り手形を集めて、これを買取らせている。値段は、額面以上だと思うが、ハッキリ判らない。彼らは、命ぜられたテーマの任務により、その出来高払いである。

ミシン会社に勤めていたのも、月掛け五百円という、ミシンの販売予約制度がその後の物価上昇やら、モデル・チェンジで、現実にミシンを受けとる時には、何千円もまとめて払わねばならないという、詐欺的な販売制度をとっているのでその実態を調べるため、モグリこんでいたのだ。そして、もう任務が終ったのでそこは辞めて、今はある土地会社に入っている。このような問題会社の選定は、組織がやる。彼らは命令で動くだけにすぎない。

その問題会社が、どの程度、新聞、雑誌や、捜査当局にマークされているかを調べるためには、まず、ある程度の調査結果にもとづいて新聞社の社会部あてに、投書をする。すると、必らず、警視庁の記者が窓口として現われるので、その記者と接触して、情報提供を装って、実際には、捜査当局の動きをつかむ。その動きを見ながら、金をユスる。もちろん合法的にである。

そして、いよいよ、事件として、問題が表面化しそうだと判ると、相手方も、どうせ事件化するのならと、ケツをまくって金を出さなくなるので、その最後のチャンスの判断をして、その時にできるだけ多額の金を取るようにする。

全日本流通機構のケースだって、福田一代議士にとっては、政治生命にかかわるほどの材料がある。しかし、六月ごろで、打切りにしなければならない。客観状勢がそうなってきているので、近く手に入る巨額の不渡り手形で、終わりにする予定だ——。

Yは、私の取材結果を知りたくて、幾度か会い、雑談しているうちに、ほぼこのような話をもらしたのであった。彼の話のうち、不渡り手形を買い取らせている(相手を明示しなかったが、話の前後から、それは、福田一議員であった)という件は、福田一議員が麻生議員にいった、「ユスられて困っている。この金は不渡り手形の買い戻し代金ではなく、見舞金だ」というのと、符節するではないか。

官房長官がアキレタ早わざ

流通機構社の、パンフレットには「代表取締役福田弘」と、一名しか名前が出ていないが、登記とう本にある、もう一人の代表取締役、金沢政男という人物は、大阪府警の、捜査四課、捜査二課の調べによると、スター商会という、手形のサルべージ屋(パクられた手形をサルべージしてくる商売)の社長である。つまり、手形ブローカーである。サルべージ屋とはいっても、これはパクリ屋と表裏一体で、パクリ屋がパクった手形を、サルべージ屋が回収してきて、その料金を折半するのだから、一ツ穴のムジナである。

黒幕・政商たち p.096-097 日綿のウラ書き三和銀行で割引

黒幕・政商たち p.096-097 各県商工会議所などの、小売り側からマキ上げた手形は、「割り引きのため」金沢代表取締役から、大阪の暴力団「柳川組」組長柳川次郎に渡った
黒幕・政商たち p.096-097 各県商工会議所などの、小売り側からマキ上げた手形は、「割り引きのため」金沢代表取締役から、大阪の暴力団「柳川組」組長柳川次郎に渡った

流通機構社は三十九年ごろから機構づくりをはじめた。村上官房長の国会答弁にある、「三十九年春、知人が青年を福田蔵相のもとにつれてきた」という、その青年が、福田弘その人である。すると〝知人〟というのが誰であるか、容易に想像されるのは、福田一議員であるが、関係者は口をカンして〝知人〟の名を明かそうとはしない。こうして、三十九年の秋には「全日本流通機構」なる構想が煮つまってきて、全国の商工会議所や業者への働らきかけがはじまった。こうした仕事が、誰の紹介で誰の口利きで行なわれたのであろうか。

村上官房長答弁にいう「電光石火のように物を買った」とある通り、帝人をはじめとして、繊維会社や文具メーカーから品物を買いこみ、数億円にのぼる不渡り手形をつかませ、一方、それらの品物を流した。各県商工会議所などの、小売り側からマキ上げた手形は、「割り引きのため」金沢代表取締役から、大阪の暴力団「柳川組」組長柳川次郎に渡ったのであるが、これは、〝結果的に〟パクられてしまった、ことになった。被害を受けたのは、福田一議員の選挙区、福井をはじめとする、岐阜、熊本、高知などの各県の商工会議所である。この辺に、Yのいう、「福田さんの選挙区に数カ月も滞在して調べた」事実があるのだろう。

この、手形サギ事件も、Yの断片的な話からまとめてみたもので、いずれも各関係者が、被害を伏せているので、果して、総計で、何億という金になるのか、全く不明である。明らかになったのは、さとう印刷の四十四万円だけという、それこそ、全くの〝怪談〟である。そして

また、各県商工会議所を経た、本物の手形の金は、どこに消えてしまったのであろうか。金沢、柳川両名にただすべく、大阪に飛んでみた私が知り得たのは、両名とも別件で拘禁されていて、取材ができないということだった。

だが、この手形サギ事件ばかりではなく、もう一つ、不可解な土地の不正払下げ事件なるものがある。

六甲山の国定公園に隣接する国有地の地主たちに、同社は「福田蔵相の政治力で、土地を高く売ってやる」ともちかけ地主たちに運動資金約三千万円を出させたといわれる。そして、国定公園の国有地の一部を抱き合わせ、これを日綿実業に払下げるという話をデッチあげた。流通機構の手形に、そんな関係で日綿のウラ書きをさせ、これを三和銀行で割引いて、四億円もの現金が動いたが、これまた、全くの詐術で、話は吹き飛んでしまった。日綿実業で取材してみると、これまた、「会社を調べてみましたが、流通機構なる会社と取引きした事実はありません」と、否定の返事である。

では、土地買収の資金として、三和銀行から出ていった、四億円の金は一体、どこに消えてしまったのだろうか。

福田一議員の側近筋では、「弘さんというのは、全くのお坊ッちゃんで、そんな悪事のできる人ではない。第一、芝で喫茶店を経営しているのだから、喰うに困るわけじゃなし、誰か、

悪い朝鮮人にカツがれたのではないだろうか」と、はなはだ同情的であるが、福田弘、金沢政男の両代表取締役の下には、I大蔵省係長、I通産省といった、元役人二人もいるのだから、そもそもの、この会社の構想は、このあたりからスタートしていると見られよう。