日別アーカイブ: 2020年5月17日

黒幕・政商たち p.106-107 日本産銅の両鉱区は水没する

黒幕・政商たち p.106-107 そのスッタモンダの最中の三十六年ごろ、緒方は赤坂で地元代議士の福田に会見した。「巌洞鉱山なんて知らない」と開口一番、福田はいった。
黒幕・政商たち p.106-107 そのスッタモンダの最中の三十六年ごろ、緒方は赤坂で地元代議士の福田に会見した。「巌洞鉱山なんて知らない」と開口一番、福田はいった。

現実の調査と取材とは、まだまだこれからの長い時間を必要とするだろう。

【疑問】

その一、計画変更の経緯 電発と北陸電力との竸願はなぜか。電発に決った時、なぜ水路が遠くなり発電力が落ちたのか。土建業者とのクサレ縁はないのか。

その二、不正入札 土建業者の談合は? クチバシを入れた政治家夫人はいないか。

その三、人事問題 藤井総裁実現のため誰と誰が動いたか、エンギをかついだ末広がりの八千万円の金は誰の手に?

その四、ナゾの死 中林、倉地両氏の死にいたるまでのナゾ。

その五、利権代議士 その名は? 計画変更や不正入札に暗躍した奴はいないか?

その六、補償 池原ダム汚職の金の動きこそ、補償問題の典型である。ここにも、代議士が登場する。

今、彼は東京駅前、郵船ビル六階にある株式会社「シリカ」の社長室で、静かに選挙戦のあとをふり返ってみる。侯補者からようやくシリカ社長にもどった彼の、脳裡に去来するものは、九頭竜ダムのため、悲運に傾いた会社の十年の苦闘と、現実に味わった〝民主政治の選挙〟の苦杯。——その中から、彼は、ふたたび新たな闘志を、湧き立たせてくれたものを感じていた。

「現状の打破です。現代官僚権力政治は、法律さえ守れば道義も道徳も顧みない。責任はとらない。今日の経済の繁栄は自民党官権政治のおかげだとうそぶく。こうした連中を叩きつぶさねば、明日の日本はどうなります!」こうして彼は驚くべき〝政治の恥部〟について語り出した。

右翼の巨頭乗りだす

九頭竜ダムの水没地点付近に、昭和十五年から操業している日本産銅という鉱山会社があった。同社巌洞鉱業所の巌洞鉱区と長野鉱区である。もちろん上場会社だった。

戦後の混乱期がすぎて二十六年同鉱業所を再開し、同時に設備の拡張合理化(日産一〇〇トン処理採掘選鉱設備)を目指して操業兼建設を始めた。

そこに昭和三十三年になって、電発が〝日本最後の大ダム工事〟という九頭竜ダムの計画も具体化してきた。電発案によれば、この日本産銅の両鉱区は水没する——そして電発側から同社に、「貴社の協力がなければこの計画が実現できない。国家的見地からぜひご協力願いたい。当然補償は着工前にいたしますから」という、協力要請さえもあった。

日本産銅としては昭和三十六年完成の予定で、通産省より開銀融資の推薦をうけ、同鉱業所の設備を一新する計画が進んでいたが、この〝要請〟から計画を変更して翌三十四年、電発への協力を株主総会で決定、鉱区は休山することとなった。だが、北陸電力が竸願したことから、九頭竜ダム計画は二転、三転、日本産銅は宙ブラリンのまま放出されてしまった。

「国家的意義のある建設工事と思えばこそ、進んで協力したのに政治家にとってはダム工事も単なる利権にすぎない。彼らの利権争いが、竸願、計画変更といった現象を生みだすのだ」

緒方はこうきめつける。

そのスッタモンダの最中の三十六年ごろ、緒方は赤坂で地元代議士の福田に会見した。 「巌洞鉱山なんて知らない」と開口一番、福田はいった。しかも時間がたってから、「お前のところは二十億もの補償を要求しているそうだナ」

黒幕・政商たち p.108-109 人を介して児玉誉士夫にあった

黒幕・政商たち p.108-109 緒方の訴えをきいて、児玉は「まず調べさせよう。そして可能性があれば引受けてやる」といった。赤坂の千代新に、すぐさま某政治記者と某経済記者が呼びつけられた。政治記者は中曾根康弘をつれてくる
黒幕・政商たち p.108-109 緒方の訴えをきいて、児玉は「まず調べさせよう。そして可能性があれば引受けてやる」といった。赤坂の千代新に、すぐさま某政治記者と某経済記者が呼びつけられた。政治記者は中曾根康弘をつれてくる

そのスッタモンダの最中の三十六年ごろ、緒方は赤坂で地元代議士の福田に会見した。

「巌洞鉱山なんて知らない」と開口一番、福田はいった。しかも時間がたってから、「お前のところは二十億もの補償を要求しているそうだナ」

高飛車にこういわれて、緒方は福田の行動に疑問を感じた。

福田は「九頭竜ダム」には自民党北陸開発委員として、あらゆる面で関係していたし、当時通産省公益事業局(局長大堀弘)ではダム計画は相当に福田の圧力をうけていたとみていた。

三十八年春、休山したままの日本産銅は、力つきて株式会社シリカ(資本金二億五千万円)に吸収合併された。緒方謙吉(克行の父)は引退し、緒方がシリカの社長となった。三十九年春、シリカは電発に対し長野鉱区一・四億、巌洞鉱区四億、計五・四億の補償を要求した。前年暮に、九頭竜ダムは電発がやることに決ったが、計画は変更され、巌洞鉱業所の水没部分は、はじめの要請時よりも減っていた。

そして、電発がシリカ(日本産銅時代をも通して)の補償問題に全くとりあってくれないため、三十九年一月、緒方は大野伴睦を訪れて陳情した。大野は納得して子分の村上勇にいいつけ、電発の藤井総裁を呼びつけた。その〝実力〟ぶりをみて彼は問題解決を期待したが、大野はまもなく死去した。

大野が藤井総裁を呼びつけた二カ月後、シリカは正式に五・四億の補償を要求、さらに四カ月後の三十九年七月、電発との間にはじめて折衝が行なわれた。

「電発を交渉のテーブルにつかせてくれたのは、大野の力と村上勇の努力だと思う」と緒方は回顧する。テーブルにはついたが、電発は数字を示さない。時は流れてゆく。緒方は苦慮

して、人を介して児玉誉士夫にあった。

緒方の訴えをきいて、児玉は「まず調べさせよう。そして可能性があれば引受けてやる」といった。赤坂の千代新に、すぐさま某政治記者と某経済記者が呼びつけられた。政治記者は中曾根康弘をつれてくる、経済記者は電発大堀副総裁工作をする、と役がふられた。

のちに緒方が内幕話をきいてみると、中曾根康弘は大堀にあい、大堀から緒方の悪口をきかされるや、「アレはダメだ」と児玉に復命したが、児玉に「オレは緒方が正しい主張をしていると思う。大体電発は官僚的で怪しからん会社だ。もう一度検討してやってみてくれ」とハッパをかけられて、ようやく本気で動きだした。

電発工作資金に一千万円

三十九年十二月二十日すぎ、児玉から緒方のもとに「補償はとってやる。資金一千万円を持ってこい」と連絡があった。押しつまっての現金一千万円の工面に緒方は泣いた。二十七日に、児玉の家にとどけにゆくと、二人の記者が坐っていた。児玉は現金をかぞえてからいった。

「この中の三百万は、この男(政治記者を示し)の関係している出版社の株代金にするぞ」

緒方は児玉の堂々たる事務処理に感嘆しながら、ハイと答えた。「き誉ほうへんは別として

やはり魅力ある人物ですナ」緒方は金の工面の苦しさも忘れ、大船にのった安堵をおぼえたという。

黒幕・政商たち p.110-111 緒方は不吉な予感を覚えた

黒幕・政商たち p.110-111 「河野が死んで、オレも忙しくなった。ついては例の件は忙しくてやれないから断わるよ」児玉は拓銀の帯封のピン札を一千万円、押しやりながらこう緒方にいった。
黒幕・政商たち p.110-111 「河野が死んで、オレも忙しくなった。ついては例の件は忙しくてやれないから断わるよ」児玉は拓銀の帯封のピン札を一千万円、押しやりながらこう緒方にいった。

児玉は現金をかぞえてからいった。

「この中の三百万は、この男(政治記者を示し)の関係している出版社の株代金にするぞ」

緒方は児玉の堂々たる事務処理に感嘆しながら、ハイと答えた。「き誉ほうへんは別として

やはり魅力ある人物ですナ」緒方は金の工面の苦しさも忘れ、大船にのった安堵をおぼえたという。

年があけた。三月になって、経済記者から「大堀副総裁によばれ電発はほば要求額を支払うことになった。ついては、技術的な問題だが、長野鉱区の鑑定書の数字を水増ししてもらいたい」という連絡が入り、ついで児玉からも、「電発の内部調整のため、お盆がすぎたら、要求通り支払がある」と、正式な連絡があった。

この返事をきいて、緒方は感慨無量であった。晩年の父が我が子さながらの日本産銅から冷たく放逐された原因であり、経歴ある実業家が六年の歳月を費やしても、一顧だにされなかった補償交渉が、一私人の指揮で新聞記者が走りまわれば、数カ月で解決する——五・四億の大金も、経費をさし引き、株主に分配すれば、緒方には幾ばくも残らない。

「しかし、これでいいんだ。日本産銅の数百の株主に対し、その債権、債務を継承したシリカ社長として、オレは十分責任を果したのだ」緒方はそう自分にいいきかせた。だが、シリカ社長は納得できても、緒方個人は釈然としなかった。

「これが、日本の政治の現実なのか!」肩の重荷を下ろした喜びと、現実直視の苦しみの、混乱した日がすぎて、ある日、テレビニュースが、河野一郎の急逝を告げた。

その瞬間、緒方は不吉な予感を覚えたという。

四十年七月二十六日(河野の死後十八日目)、緒方は呼ばれて児玉家へやってきた。中曾根康弘と経済記者が同席していた。

「河野が死んで、オレも忙しくなった。ついては例の件は忙しくてやれないから断わるよ」児玉は拓銀の帯封のピン札を一千万円、押しやりながらこう緒方にいった。「中曾根康弘は、腕組みしたまま天井をみつめ、私の方を見ませんでした」不吉な予感は的中した。河野の突然の死が、こんな形で影響してくるとは——

これも〝政治の現実〟であった。

河野の死の前、四十年四月に電発の用地担当理事は石井に代っていた。呆然自失の数カ月がすぎた。緒方には大堀副総裁が憎かった。親密な経済記者を通して、補償を認めるといいながら、河野という重石がなくなるとヒョウ変するとは——

緒方は泣くに泣けなかった。記者を通しての大堀の返事には、何の証拠もない。児玉だって、一銭もとったわけではなし、〝お願い〟を〝断わられ〟たのだから、どうしようもないのだ。その上、とんでもないオトシ穴さえ掘られていたのに、気付いたのは後になってからであった。

その年の春、ようやく気力を回復した緒方は、山梨の田辺国男に会った機会に、この驚くべき〝現実〟について語った。

黒幕・政商たち p.112-113 親分の川島正次郎に話して

黒幕・政商たち p.112-113 そして、第三回目に自宅を訪ねた時、緒方と対談中の田中角栄に、「御挨拶だけ……」といいながら、一人の男が部屋に入ってきた。
黒幕・政商たち p.112-113 そして、第三回目に自宅を訪ねた時、緒方と対談中の田中角栄に、「御挨拶だけ……」といいながら、一人の男が部屋に入ってきた。

その年の春、ようやく気力を回復した緒方は、山梨の田辺国男に会った機会に、この驚くべき〝現実〟について語った。

緒方に同情した田辺国男は、「親分の川島正次郎に話して、決算委でとりあげてやろう」といってくれた。田辺国男から話をきいた川島正次郎は、村上勇と相談して、四十一年四月六日、永田町のグランド・ホテルに、大堀副総裁を呼んだ。村上勇の話では、「川島正次郎副総裁が、大堀に直か談判して、その場で話をつけてくれるそうだ」という。緒方は別室で待っていたが、ホテルにやってきたのは、大堀ではなく石井理事であった。

やがて、石井は帰り、村上勇と田辺国男が緒方のもとにやってきた。田辺国男は興奮して「石井の奴ケシカラン」というのを、村上勇が押えて、「川島正次郎副総裁が『オレにまかせろ』というのだから、この際黙っていろ」という。

田中角栄先生の意外な一面

「川島正次郎自民党副総裁の呼び出しに部下のチンピラを代理に出す——こんな失礼な態度を大堀ごときに取れるものですか。当日前に、なんらかの形での川島正次郎、大堀両者間の取引、といって悪ければ、了解がついていたに違いない。でなければ川島は大堀にナメられたことになる」その後、川島からは何の連絡もなかった。

緒方は伝手を求めて、時の幹事長田中角栄に会いにいった。シリカ社長としての陳情もさることながら、この時点では、緒方個人として、田中角栄がどうでるかの興味も大きなものにな

っていた。

自宅を訪れると、田中角栄は気さくに会ってくれた。話をきいて彼は即座につぶやいた。

「九頭竜か、困ったナ」第一回はそれで終った。

次に書類をとどけた時、田中角栄は良く話をきいてくれた。

「ナニ? その用地担当理事は何という男だ? 石井? 知らん奴だ」田中角栄は石井について反問さえしたのだった。そして、第三回目に自宅を訪ねた時、緒方と対談中の田中角栄に、

「御挨拶だけ……」といいながら、一人の男が部屋に入ってきた。

「先生、ありがとうございました。おかげをもちまして、電発の石井さんにおめにかかり、契約を頂いてきました」田中角栄は「そうか、そうか」といって、その男の話を早く打切らせようとした。だが、緒方はすでに〝電発の石井〟の名をききとっていた。

「田中角栄は、はじめ石井の名前を知らなかった。それなのに部屋に入ってきた男の挨拶では、田中角栄の紹介で石井を訪ね、契約をもらってきたという。田中角栄の前を辞してから、室外の秘書にきくと挨拶にきた男は、新潟県人で保険会社の重役だという。これでは邪推したくなるというものだ。田中角栄は補償の件で石井理事に連絡して、彼を相知った。石井は、『緒方はインチキな男だ』というに決っている。そして、田中角栄は同県人を紹介し、石井は田中角栄のカオを立てて電発の保険を契約してやる。こんな推理は、失敬極まりないかもしら

んが、それが人情というものではないだろうか。そして人情の機微をいたわるのが、政治の妙諦というものではなかろうか」

緒方はついに政治家遍歴をあきらめた。