リプトン、ルーインの博徒に対抗する勢力に、ジェィソン・リー(李)という、ニューヨーク生れ
の朝鮮人二世がいる。リーは「ワシントン秘密情報」で有名な、レイト、モーティマー共著の、「シカゴ秘密情報」にも登場している、シカゴの東洋人地区の賭博の総元締で、カポネ一味に一定の貢物を納め、賭博場開設の指令を仰いでは、各地に出張する男である。
東京では、外務省と目と鼻の先にある、某生命ビルを根拠とし、シカゴ連盟から、五、六千万ドルも貰っているといわれ、東京でも一番金回りのよい博徒だ。そして、現在はマンダリン・クラブと、公然と対抗すべく「中央クラブ」の二階を借りうけ、新しい秘密クラブの設立を目論んでいる。
ところが、東京の事情はちょっと面白く、ルーイン、リプトンとリーの二組に対して、もう一つ、中共に追われてきた、上海博徒のグループがある。首領はワン(王)という怪漢。東京都内の大抵のクラブに顔を出しているが、築地のクラブ・リオ、並木通りのVFWクラブ、料理店ケーシー、著名中華料理店などが、ワンの非公式本部だ。
彼の東京における資本金は、二百万—六百万ドルというから、在京国際博徒の中では、一番の貧乏人だが、その組織は、マンダリン・クラブとは少しちがい、ワンはナイト・クラブの日本人娘数十名を抱え、客引きをやらせている。彼女らは、左手にサイコロの模様のある、金の腕輪をつけているから、直ぐわかる。客引き女たちは、金回りの良さそうな実業家などをつかまえては、ワンの「個人クラブ」に誘う。この組織は、同類中でも最も〝私的〟で、二カ月ねばってはみたが、記者にも、正体が摑めなかったほどだ。
ワンは、ホテルの一室を一週間借りて、ここを賭博場とすると、すぐまた他の場所に移り、一カ月
間は、元の場所にもどらない。つまり、〝移動式〟なのだ。
記者の調べたところだと、これら三つのグループは、東京という〝賭場〟の縄張りを争っているから、いずれは、流血ざたを呼ぶにちがいない。この場合、流される血は、バクチ打ちだけとは限らない。シカゴの例にみられるように、多くの無辜の人々が、まき添えをくうこともあり得る。
マンダリン・クラブが、はじめて蓋明けした時は、使用人の未経験のため、一夜にして二百五十万円を損したという。だが、最初の晩に儲けたお客たちも、続いてここに出入りするうち、たちまち、儲けた分を失ってしまった。
リーは、東洋人という理由で、シカゴ連盟の東京出張所長に選ばれた。太平洋戦争が終ると、マニラは、アジアにおける連盟の、活動の根拠地に選ばれた。戦争の不幸から逃れようとのぞんでいた無気力な、フィリピン人たちには、パチンコなどなかったので、賭博がすぐに、はやるようになった。今日マニラは、マニラ市民の投げやりな態度に乗じてやすやすと成功をおさめた、賭博師たちによって支配されているが、明日は、これが東京の運命ともなろう》
この寄稿をしてくれた外人記者が、だれであったか、記憶も記録も残っていないので、いまとなっては、分からない。
だが、私の取材は、この外人記者のレポートに刺激されて、三人の〝賭博王〟にインタビューすることであった。そして、三人それぞれに、印象深いのである。