黒幕・政商たち p.188-189 当日の怒声、罵声のものすごさ

黒幕・政商たち p.188-189 吉川清氏が社長として乗りこんできた。吉川氏は、〝政界の黒幕〟といわれる児玉誉士夫、警察庁指定広域暴力団「錦政会」の稲川角二両氏に〝調停〟を依頼した
黒幕・政商たち p.188-189 吉川清氏が社長として乗りこんできた。吉川氏は、〝政界の黒幕〟といわれる児玉誉士夫、警察庁指定広域暴力団「錦政会」の稲川角二両氏に〝調停〟を依頼した

餌食にされた資生堂

盗まれた〝花椿〟の素顔

そのさい関係者から明らかにされたところによると、化粧品トップメーカーの株式会社「資生堂」が、何と一億七千五百万円もの巨額を、知能暴力団にしてやられ、しかもその後も百万円を恐喝されていながら、どうしても捜査当局に被害を認めず、タカリとグルになって百万円もの横領を働らいた社員の上司を、当局の追及をさえぎって海外出張に出してしまうなど、徹底した捜査非協力ぶりで、「これでは積極的に暴力団を培養しているものだ」と暴力担当官たちの間で、はげしく非難されている。

同社は、独禁法の〝抜け穴〟といわれ、当時の公正取引委員会に疑惑の噂さえ呼んだ「再販制度」に支えられて、値崩れのないボロ儲け営業で好収益をあげている会社だが、それらの利潤が大衆や社会に還元されるどころか、暴力団関係者のウマイ汁となっている現実が明らかにされたわけで、華麗な〝花椿〟のウラ側の〝きたなさ〟に、世の指弾を買っている。

事件というのは、すでに時効となっている昭和三十六年八月ごろのこと。当時英国から原料

を入れていた「モルガン化粧品」というのがあった。このうちのモルガン・ポマードなどは、「養毛料入りで、日常愛用しているうち、白髪も黒くなる」などの宣伝文句で売り出されていたが、もともとがあまり優秀品でなかったため、売れ行きはかんばしくなかった。ところが、このモルガン化粧品が鉛分の含有量が厚生省許可基準を上回っている有毒化粧品であるとして、大手化粧品メーカーたちが連名、協力して、厚生省に「製造許可取消し」を陳情したことからはじまった。

モルガン化粧品本舗では、売れ行き不振からデッド・ストックが莫大な数量にのぼったので、これの一掃と換金を計画し、吉川清氏が社長として乗りこんできた。吉川氏は、〝政界の黒幕〟といわれる児玉誉士夫、警察庁指定広域暴力団「錦政会」の稲川角二両氏に〝調停〟を依頼した。

モルガン化粧品に狙われたのは「資生堂」一社で、一番金をもっておりかつ警察沙汰にしないであろうとの見通しをつけ、「資生堂」に対して、「モルガンの鉛分が多いなどと逆宣伝をして、営業妨害をしたのはどういうわけだ。おかげで売れなくなったのだから品物を引き取れ」と強要、同三十六年八月ごろ築地の料亭に、資生堂森治樹社長(現相談役)、伊藤前社長らの三氏を呼びだし、児玉、稲川両人立会の上、吉川社長から強硬な申し入れを行った。

当日の怒声、罵声のものすごさは、料亭の他の座敷の客まで、シーンとしてしまったほどだ

といわれ、捜査当局に参考人として呼ばれた〝見聞者の一人〟は「それこそ森社長以下三人の恐怖におそわれた姿と顔が、目に見えるようでした」と語っているほどであった。