さて、児玉氏に見放され、〝財界アウトロー〟の孤児となった大橋氏は、千葉県浦安沖に貯木センターを造る、と計画して、前島銘木店に話をもちこんだ。何とか、金を回さねばならぬ
からである。ここで前借を一億円ほどもしたといわれる。一方、三和にも何かといいよったらしいが、三和が相手にしない。
そこで、〝猪原専務追放劇〟を示唆して、油井氏に吹きこんだ。彼は「猪原が犠牲にされた、可哀想だ。それにしても首脳部は薄情だ」という記事を書き、「実業界」六月号に掲載した。
三和の株主総会前にバラまこうという狙いだ。記事を読んでみると、中味は何もない、説得力に欠ける雑報にすぎない。
彼はそれを第一に、猪原氏に知らせた。三和系列下の日新製鋼副社長ともなれば、三和と協調してやらねば仕事にならない。猪原氏は自分がホメ者で、三人の上司がワル者にされているその記事に、大迷惑である。そして小佐野社長にアッセンを頼んだ。「実業界」六月号、公称一万二千部は百五十二万余円で買い取られた。三和側にいわせると、「すべて小佐野氏が計らってくれたことで三和は関知しない」という。警察は、何とか三和銀行の被害届を取って、事件にしようと考えている、という実情であった。
三和銀行幹部の一人は、私の質問に答え、「千三百万円の件は全く無根です。大橋氏にあってもいないし、例の事件以後、融資は一件もないハズです。第一、銀行がユサブられて千三百万円もヒョイと出ると思いますか」
「鷲見メモ」の内容
警察が、油井事件を調べていた副産物に、「新日本新聞」事件というのがでてきた。大阪で、カネボウに喰いついているこの週刊新聞は、最近しきりと東京、ことに国会筋に入りこもうとしている。近江絹糸の総会に松葉会を導入したのもこの新聞である。猪俣浩三社会党代議士たちが、株を一時期もたされたのも、同代議士によると「自民党へ政治献金した内容が判るから」という、甘言にのせられたのだそうだが、それもこの新聞だ。ここが最近、銀行筋から金を集めて、その集金に歩いているのが、編集長小倉某という。「財展」社の出身、鳥飼社長と仲違いして退社したのも、集金の件だといわれる。「新日本」で福島交通の件を書きなぐって、小針社長らから、二件の名誉毀損の告訴が出され、地検特捜部苅部検事係に入っている。銀行集金の件をいいふらしたのは、O記者だとして、小倉編集長は、「Oはけしからん」と、ふれ歩いている。「財展」誌の鳥飼社長とは不仲だが、「会食」事件の執筆記者村井某とは、昔の同僚のヨシミで交際がある。
こうして、八月二十九日に「財展」誌が発売されるや、翌三十日付アカハタ紙にも、この会食事件がスクープされた。つまり、アカハタ紙は、「財展」誌の発行を待って、同時にスター
トしたのである。九月二日に検事総長が司法記者クラブでの会見で、事実関係を認めて、三日付各紙に大々的に報道されるや、アカハタ紙も三日付で報道、さらに翌四日付は一面、社会面の両面を使うという、大扱いぶりである。