正力松太郎の死の後にくるもの p.266-267 カッコよさの読者つなぎとめ

正力松太郎の死の後にくるもの p.266-267 杉並、世田谷が共産党議員の地盤であり、朝日の部数が多いということは、決して、江東に比べて〝知的〟だということではない。どうしても宅配を確保せねばならない〝家庭の事情〟は、朝日が第一。朝日の読者は不安定読者なのである。
正力松太郎の死の後にくるもの p.266-267 杉並、世田谷が共産党議員の地盤であり、朝日の部数が多いということは、決して、江東に比べて〝知的〟だということではない。どうしても宅配を確保せねばならない〝家庭の事情〟は、朝日が第一。朝日の読者は不安定読者なのである。

このような朝日読者層の〝新興〟中産階級は、宅配なればこそ、月極め読者としてつなぎ止められる読者層である。
読売の金城湯池である江東方面は、いわば細民街であり、朝日のそれに相当するのが、杉並、

世田谷、目黒の知識人街であろうか。だが、果してどちらの住民が、収入面での稼ぎ頭であろうか。私は江東の細民街の住民の方が、所得(収入)が多いと判断する。いうなれば、美味いものを食っているといえよう。

この地区の人は、大衆紙の読売を購読するのを、それこそ買って読むためにとっているのだし、生活自体もカッコよさや見栄は二の次である。だからこそ、本質的に保守である山口シズエ議員を連続十回も当選させているではないか。細民とみられる人々が、保守を支持しているということである。

本質的に保守である勤め人層の多い、杉並、世田谷が共産党議員の地盤であり、朝日の部数が多いということは、決して、江東に比べて〝知的〟だということではない、と私は考えている。

四十三年十月の新聞値上げでは、三紙のうちで、朝日が一番早く打ち出し、読売が最後だった、ということは、極めて象徴的なことだと思う。

宅配がなくなって、スタンド売りになったとき、江東の読売愛読者は、気軽に走り出て読売を買うであろうが、杉並、世田谷の朝日読者は、面倒くさがってテレビ・ニュースですませてしまうであろう。つまり、どうしても宅配を確保せねばならない〝家庭の事情〟は、朝日が第一だとみるべきである。朝日の読者は不安定読者なのである。

何故、朝日は値上げするのか? 宅配制度を守るためである。前述したように、〝商魂〟によ

るカッコよさの読者をつなぎとめるためには、宅配死守しか途がない。

新聞代の小刻み値上

さて、新聞代値上げ後の情勢も、眺めてみる必要がある。三紙とも、四十三年は八十円という 小幅で現状を糊塗したのだが、再値上げ必至の情勢で、一年後の四十四年十一月からは、また九十円値上げである。何故かというと、朝日と読売の〝巨大化競争〟が、いよいよ激しくなってきているからである。三紙のトップを切る、五百万台の発行部数をもつ朝日は、ピタリと追随してくる読売の追いあげに、それこそ苦戦の最中である。値上げのトップをも切らざるを得なかったのは、追われる者の苦しさである。

最初、朝日社内では「一カ月千円」という破天荒な数字が、真剣に検討された。主として編集幹部の意見だったらしい。この値段は週刊文春誌なども伝えていた数字だが、その根拠は、大幅値上げによって、ひんぱんな小幅値上げを避け、思いきって経営の安定化を図る。昨今の心理的風潮が、「たかいものだからいいもの、美味いもの」と、倒錯的評価の傾向にあるので、高級紙「朝日」だけが実行し得る大幅値上げであり、朝日読者はそれでもついてくる、というにあっ た。