新宿慕情 p.132-133 半陰陽。俗語で〈ふたなり〉ともいう

新宿慕情 p.132-133 逮捕された時は、刑事たちは、女性だと思い、留置も、女性房に入れた。だが、彼女は、「男だから、男性房に入れろ」と、ワメクのだ。
新宿慕情 p.132-133 逮捕された時は、刑事たちは、女性だと思い、留置も、女性房に入れた。だが、彼女は、「男だから、男性房に入れろ」と、ワメクのだ。

狂い咲く〈性春〉

彼女、やはり男?

私が、こうして、上野・浅草のサツまわりの間に、〈風俗研究家〉になったのは、それなりの理由があったのである。

ひとりの青年が、窃盗で上野署に逮捕された——元国鉄職員で、現在は無職。調書を作成しながら、捜査主任は、どうしても、この〝青年〟の供述を信じられなかったのである。

もちろん、逮捕された時は、刑事たちは、女性だと思い、留置も、女性房に入れた。だが、彼女は、「男だから、男性房に入れろ」と、ワメクのだ。

前歴を照会し、国鉄職員であったことも確認され、戸籍も明らかになったが、彼女は、やはり男性であった。

だが、どう見ても、姿も、マエも〝女〟なのである。入浴させる時に、ソレとなく観察したのだが、フクラミ工合といい、なによりも〝一物〟のないところなど、女であった。

私は、この事件を知って、実際に、刑事に天ドンをおごってもらう彼を、デカ部屋で目撃して

から、たいへん興味を覚えた。

 彼は、送検され、起訴され、公判になっても、なぜか、上野署の留置場の独房にいた。調べてみると、裁判所が、その性について、東大の法医学教室に鑑定を求めていたのだった。

単純窃盗の彼には、執行猶予がついて、上野署から釈放された。ついに、拘置所送りにはならなかった。

私は、手を尽して、その鑑定書を見ることに成功した。

「かつて、男性であったことが認められるが、現在は、男性でも女性でもない……」

間性というのか、中性というべきか。〈性〉のさだめのない彼に、世の中の人類を、男・女に区別して、それだけしか、収容設備のない行刑当局では、困ったのだろう。

彼は、〝宿命の性〟——半陰陽として生まれてきた。

半陰陽。俗語で〈ふたなり〉ともいうが、真性は、睾丸と卵巣の双方を同時に持っているもので、世界中での報告例は、あまり多くない。十例前後ともいわれる。

仮性には、仮性男性半陰陽と仮性女性半陰陽とがある。見てくれは女性だが、ほんとうは男性というのが前者で、後者はその反対である。

彼は、この前者であった。尿道下裂症といって、〝棒〟の裏側のジッパーがこわれている。これが、オナカについているのだから、どうみても、ドテである。

亀頭部は発育不全で、その上部にこぢんまりとついているから、これまた、どうみてもサネで

ある。陰嚢は、睾丸が腹腔中に滞留しているので、クシャクシャになって、ジッパーのこわれて裂けた部分の、下のほうについているから、産婆さんがみても、親兄弟がみても、どうしても、女に見える。