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新宿慕情 p.010-011 新宿慕情・目次 事件記者と犯罪の間・目次

新宿慕情 p.010-011 新宿慕情 目次 事件記者と犯罪の間 目次
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新宿慕情目次

はしがき
新宿慕情
洋食屋の美人
〝新宿女給〟の発生源
ロマンの原点二丁目
〝遊冶郎〟のエチケット
トップレス・ショー
要町通りかいわい
ブロイラー対〝箱娘〟
〝のれん〟の味
ふりの客相手に
誇り高きコック
味噌汁とお新香
新聞記者とコーヒー
お洒落と女と
おかまずしの盛況
大音楽家の〝交〟響曲
〝禁色〟のうた
えらばれた女が……
オカマにも三種類
狂い咲く〈性春〉
青春の日のダリア

事件記者と犯罪の間

その名は悪徳記者
特ダネこそいのち
権力への抵抗
根っからの社会部記者

新宿慕情 p.132-133 半陰陽。俗語で〈ふたなり〉ともいう

新宿慕情 p.132-133 逮捕された時は、刑事たちは、女性だと思い、留置も、女性房に入れた。だが、彼女は、「男だから、男性房に入れろ」と、ワメクのだ。
新宿慕情 p.132-133 逮捕された時は、刑事たちは、女性だと思い、留置も、女性房に入れた。だが、彼女は、「男だから、男性房に入れろ」と、ワメクのだ。

狂い咲く〈性春〉

彼女、やはり男?

私が、こうして、上野・浅草のサツまわりの間に、〈風俗研究家〉になったのは、それなりの理由があったのである。

ひとりの青年が、窃盗で上野署に逮捕された——元国鉄職員で、現在は無職。調書を作成しながら、捜査主任は、どうしても、この〝青年〟の供述を信じられなかったのである。

もちろん、逮捕された時は、刑事たちは、女性だと思い、留置も、女性房に入れた。だが、彼女は、「男だから、男性房に入れろ」と、ワメクのだ。

前歴を照会し、国鉄職員であったことも確認され、戸籍も明らかになったが、彼女は、やはり男性であった。

だが、どう見ても、姿も、マエも〝女〟なのである。入浴させる時に、ソレとなく観察したのだが、フクラミ工合といい、なによりも〝一物〟のないところなど、女であった。

私は、この事件を知って、実際に、刑事に天ドンをおごってもらう彼を、デカ部屋で目撃して

から、たいへん興味を覚えた。

 彼は、送検され、起訴され、公判になっても、なぜか、上野署の留置場の独房にいた。調べてみると、裁判所が、その性について、東大の法医学教室に鑑定を求めていたのだった。

単純窃盗の彼には、執行猶予がついて、上野署から釈放された。ついに、拘置所送りにはならなかった。

私は、手を尽して、その鑑定書を見ることに成功した。

「かつて、男性であったことが認められるが、現在は、男性でも女性でもない……」

間性というのか、中性というべきか。〈性〉のさだめのない彼に、世の中の人類を、男・女に区別して、それだけしか、収容設備のない行刑当局では、困ったのだろう。

彼は、〝宿命の性〟——半陰陽として生まれてきた。

半陰陽。俗語で〈ふたなり〉ともいうが、真性は、睾丸と卵巣の双方を同時に持っているもので、世界中での報告例は、あまり多くない。十例前後ともいわれる。

仮性には、仮性男性半陰陽と仮性女性半陰陽とがある。見てくれは女性だが、ほんとうは男性というのが前者で、後者はその反対である。

彼は、この前者であった。尿道下裂症といって、〝棒〟の裏側のジッパーがこわれている。これが、オナカについているのだから、どうみても、ドテである。

亀頭部は発育不全で、その上部にこぢんまりとついているから、これまた、どうみてもサネで

ある。陰嚢は、睾丸が腹腔中に滞留しているので、クシャクシャになって、ジッパーのこわれて裂けた部分の、下のほうについているから、産婆さんがみても、親兄弟がみても、どうしても、女に見える。

新宿慕情 p.138-139 膣だけは日本の医者ではダメらしいわ

新宿慕情 p.138-139 男根と睾丸の切除は、東京の医者にかかった。ヤミ手術なのである。ヤミだから高価い。「二、三百万円かかったわ…」と、彼女はボカしていう。
新宿慕情 p.138-139 男根と睾丸の切除は、東京の医者にかかった。ヤミ手術なのである。ヤミだから高価い。「二、三百万円かかったわ…」と、彼女はボカしていう。

申しわけ程度の、小さな布切れを下につけただけの、彼女の身体は、そのチチブサのように

白く、丸く、美しく輝いて、ステキであったが、どうしても優しく拒んで、その布切れを取ろうとしない。

田舎のこと、東京に出てきたこと、親や兄弟のこと。抱き合ったままの物語は、時々、彼女の瞳にキラリと光るものさえ浮べるほどで、なにか〝秘密〟を匂わせていた……。

はじめの間は、この私でさえ彼女の戸籍が錯誤から「男」と記入されてしまっていた、法的無知のために、その訂正の手続きが取れないでいるのかナ? と思いこんでしまったのであった。

私の〈新聞記者的好奇心〉は「それで?」「そして?」「どうして?」と、彼女を追い込んでいって、とうとうオトした。〝オトす〟というのは、「全面自供」させるということだ。

このハスキー・ホーマン嬢は実は、男性だった。そして、性転換手術の途上にあったのだ。

男根と睾丸の切除は、東京の医者にかかった。ヤミ手術なのである。ヤミだから高価い。

「二、三百万円かかったわ……」

と、彼女はボカしていう。医者の名前は? とたずねると、

「それだけは許して!」

と、絶叫に近い声でいう。

イヤがる彼女を口説き落して私はパンティを脱がせた。

まじまじと、明るい電灯の光のもとで、〈事実〉を見た。

——ノガミの半陰陽と同じだ!

東大の、あの鑑定写真と、まったく同じものが、そこにあった。

人差指と中指とで、外陰部を押しひろげてみると、やはり、〝小野小町〟だった。

睾丸の摘出によって、やはり身体は女っぽくなるらしい。チチブサは、注射でふくらませられよう。だが、彼女が最後までパンティを取らなかったように、〝最後のモノ〟がないという悲しみが、彼女に涙を誘わせるらしい。

「でも、いま、お金を貯めているのよ。膣だけは、日本の医者ではダメらしいわ。……八百万円ぐらいかかるんだって……。それに、外国へ行く旅費も必要だもンね……」

呼びこみバーで働く女としては、美しすぎる彼女だったが、あの種の店は、女の子の定着が悪いし、付き合いがないから、彼女の〝身許〟がバレるおそれが少ないこと。そして、荒稼ぎも可能だ、ということだった。

だが、性転換の費用、ざっと一千四、五百万円を稼ぐためにその〈青春〉を、ネオン街に埋没させる青年——。そんな連中がいるのが、〈新宿〉なのだ。