最後の事件記者 p.412-413 防衛庁と通産省があいているのだが

最後の事件記者 p.412-413 「お前のようなズボラを、一人のクラブへ出すのは、虎を野に放つのと同じだという意見もあるんだ。チャンと出勤しろよ。」
最後の事件記者 p.412-413 「お前のようなズボラを、一人のクラブへ出すのは、虎を野に放つのと同じだという意見もあるんだ。チャンと出勤しろよ。」

立正佼成会へスパイ
警察の主任になったり、旅館の番頭などと、芝居心をたのしませながら仕事をしているうちに三十一年になるとまもなく、警視庁クラブを中心とした、立正佼成会とのキャンペーンがはじま

ってきた。

その前年の夏に、警視庁に丸三年にもなったので、そろそろ卒業させてもらって、防衛庁へ行きたいなと考えていた。「生きかえる参謀本部」と、「朝目が覚めたらこうなっていた——武装地帯」という、二つの再軍備をテーマにした続きものを、警視庁クラブにいながらやったので、どうもこれからは防衛庁へ行って、軍事評論でもやったら面白そうだと思いはじめたのであった。

そのころ、名社会部長の名をほしいままにした原部長が、編集総務になって、景山部長が新任された。それに伴って人事異動があるというので、チャンスと思っていると、一日部長に呼ばれた。アキの口は防衛庁と通産省しかない。病気上りででてきていた先輩のO記者が、通産省へ行きたがっていたので、これはウマイと考えた。

「防衛庁と通産省があいているのだが、警視庁は卒業させてやるから、どちらがいい」

という部長の話だった。えらばせてくれるなどとは、何と民主的な部長だと、感激しながら答えた。

「通産省は希望者もいることですから、ボクは防衛庁に……」

といいかけたら、とたんに、

「何いってるンだ。通産省ほど社会部ダネの多い役所はないのに、今までの奴らは、保養のつもりで書きやがらねえ。お前がいって、書けるということをみせてやれ」

と、全く話が変になってしまった。そればかりではない。

「お前のようなズボラを、一人のクラブへ出すのは、虎を野に放つのと同じだという意見もあるんだ。チャンと出勤しろよ。従来の奴が書けないクラブで、お前に書かせようというのだから」

とオマケまでついてしまった。こうして三十年の夏から、通産、農林両省のカケ持ちをやっていたところに、キャンペーンに召集がかかってきた。ヒマで困っていたので、よろこび勇んで、はせ参ずると、ニセ信者になって、佼成会に潜入して来いというのだ。

立正佼成会のアクドイ金取り主義をつかむのには、その内部の事情を知らねばならない。当然事前に潜入して調べておいてから、キャンペーンをはじめるべきなのに、戦いがはじまってしまってから、スパイに行けというのだから、チョット重荷だった。だが、面白そうである。

共産党だって、フリーの党員というのはないのだから、佼成会も、入会を紹介してくれる導き親がなければならない。ことに、読売側から潜入してくるだろうという声もあって、警戒厳重だというから、よほどウマイ状況をつけないと、入会できない。そこで、導き親を探しはじめた。

「誰か知っている人に、佼成会の信者はいないかネ」

部内はもちろん、社内の誰彼れと、まんべんなく声をかけたが、神信心を必要とするようなのは、新聞社にはいないとみえて、どうにも手がかりがないままに数日すぎた。

手がかりをつかむ

と、ある日、Tというサツ廻りの記者が、「どうもそれらしい心当りをみつけた」と知らせて

くれた。日蓮宗には違いないが、佼成会かどうか、確かめてみるというのだった。