雑誌『キング』p.108中段 幻兵団の全貌 引揚者の不可解な死

雑誌『キング』昭和25年5月号 p.108 中段
雑誌『キング』昭和25年5月号 p.108 中段

私は社会部へ帰って引揚記事を担当した。翌二十三年五月十日、同年度の引揚第一陣の入京から、一列車もかかさずに品川、東京、上野の各駅で引揚者を出迎えた。同年六月四日からはじめられた〝代々木詣り〟(引揚者の代々木共産党本部訪問)には、毎回同行して党員たちとスクラムを組みアカハタの歌を唱っていた——だが、インターを叫ぶ隊伍の中に見える無表情な男の顔、肉親のもとに帰りついてますます沈んでゆく不思議な引揚者、そしてポツンポツンと発生する引揚者の不可解な死——ある者は船中から海に投じ、ある者は復員列車から転落し、またある者は自宅で縊死をとげているのだ。

私はこの謎をとくべく、駅頭に、列車に、はては舞鶴まで出かけて、引揚者たちのもらす片言隻句を丹念に拾い集めていった。やがて、まぼろしのように〝スパイ団〟の姿が、ボーッと浮かび上がってきたのだった。

約十分間の休憩ののちに、岡元委員長は冷静な口調で再開を宣した。ついに公開のまま続行と決定した。満場は興奮のため水を打ったように静まり、記者席からメモをとるサラサラという鉛筆の音だけが聞こえてくる。小針証人が立ち上がって証言をはじめる。