握られた一人の捕虜を威圧するには、充分すぎるほどの効果をあげていた。
『サジース』(坐れ)
少佐はかん骨の張った大きな顔を、わずかに動かして向かい側の椅子をさし示した。
——何か大変なことがはじまる!
私のカンは当たっていた。私はドアのところに立ったまま落ちつこうとして、ゆっくりと室内を見廻した。八坪ほどの部屋である。正面にはスターリンの大きな肖像が飾られ、少佐の背後には本箱、右隅には黒いテーブルがあり、沢山の新聞や本がつみ重ねられていた。ひろげられた一枚の新聞の『ワストーチノ・プラウダ』(プラウダ紙極東版)とかかれた文字が印象的だった。
歩哨が敬礼をして出ていった。窓には深々とカーテンがたれている。
私が静かに席につくと、少佐は立ち上がってドアのほうへ進んだ。ドアをあけて外に人のいないのを確かめてから、ふり向いた少佐は後手にドアをとじた。
『カチリッ』
という鋭い金属音を聞いて、私の身体はブルブルッと震えた。
——鍵をしめた!
外からは風の音さえ聞こえない。シーンと静まり返ったこの部屋。外部から絶対にうかがうこ