したら、『なんだ、お前はこれだけしか知らないのか』と、その中尉に嘲笑されてしまった。そして、呼び出しがあると『腹痛だ』『作業に出ている』と逃げばかり打っていたので、役に立たないと思ったのか、各収容所を転々として廻される羽目になった。そして他の仲間はどんどんダモイするのに、私ばかり帰されなかった。
各所を廻されている間も、連絡はあるとみえて、それぞれのところで呼び出されていた。合計六回も行ったろう。最後は昭和二十四年七月末のこと、最初の通訳の少尉に逢った。
『金を持っているか』
この手で今までによくマキ上げられた経験があるので警戒して少なく答えた。
『二十ルーブルほどある』
『足りるか』
『どうやら煙草代にはなる』
『金をやろう』
私は驚いたが、わずかばかりの金なぞと思い、
『いらない』
『では、オレのいう通り書け』といって、
『私ハ賞金トシテ一二〇ルーブルヲ受領シタ』
と、領収証を私にかかせ、スパイ名で署名すると、金も一緒に自分のポケットにしまいこんで、『もう帰れ』と涼しい顔をしていた。
自分がスパイになったので、気をつけてみる