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雑誌『キング』p.115下段 幻兵団の全貌 『金をやろう』

雑誌『キング』昭和25年5月号 p.115 下段
雑誌『キング』昭和25年5月号 p.115 下段

したら、『なんだ、お前はこれだけしか知らないのか』と、その中尉に嘲笑されてしまった。そして、呼び出しがあると『腹痛だ』『作業に出ている』と逃げばかり打っていたので、役に立たないと思ったのか、各収容所を転々として廻される羽目になった。そして他の仲間はどんどんダモイするのに、私ばかり帰されなかった。

各所を廻されている間も、連絡はあるとみえて、それぞれのところで呼び出されていた。合計六回も行ったろう。最後は昭和二十四年七月末のこと、最初の通訳の少尉に逢った。

『金を持っているか』

この手で今までによくマキ上げられた経験があるので警戒して少なく答えた。

『二十ルーブルほどある』

『足りるか』

『どうやら煙草代にはなる』

『金をやろう』

私は驚いたが、わずかばかりの金なぞと思い、

『いらない』

『では、オレのいう通り書け』といって、

『私ハ賞金トシテ一二〇ルーブルヲ受領シタ』

と、領収証を私にかかせ、スパイ名で署名すると、金も一緒に自分のポケットにしまいこんで、『もう帰れ』と涼しい顔をしていた。

自分がスパイになったので、気をつけてみる

雑誌『キング』p.115上段 幻兵団の全貌 誓約書を書け

雑誌『キング』昭和25年5月号 p.115 上段
雑誌『キング』昭和25年5月号 p.115 上段

誓約書を書くにいたった状況はこうだ。昭和二十二年の暮れごろ、作業係将校の名前で、収容所司令部に呼び出された。もちろん、それまでの間に、数回呼ばれて身上調査は、うるさいほど詳しくやられていた。

さて、行ってみると、待っていたのは思想係の政治部員の中尉と、同じく少尉の通訳だった。そこで『政党は何党を支持するか』『思想はどうだ』『どんな政治がよいか』『ソ連のやり方はいいか悪いか』『ソ連に対するウラミは有るか無いか』などの問答があってから、

『オレは内務省の直系で、オレのいうことは内務省のいうことと一緒だが、オレのいうことを聞くか』

と切り出してきた。

『きけることならきく』

『何でもきくか』

『……』

『紙をやるからオレのいう通りに書け』

『何を書くのか』

『誓約書だ』

『誓約書なんか、何の誓約書だか分からずには書けない』

と、私はシャクにさわったので強硬に突っぱねた。すると中尉はいきなり腰のピストルを抜